芳垣・定村 Session

スーパーデラックスに足を運ぶのも今年は今夜で最後か、等と思いながらファッ金・ヒルズの前を通り過ぎようとすると、こんなところでまでビラまきの連中が出てくるようになった。ホントに景気は悪化している。



芳垣安洋がNYで活動しているヴァイオリニストの定村史朗を迎えてセッション。そこに昨夜の酒井さんのライブでピアノを弾いていた田中信正、色々と小物を扱うCinema Dub Monks曽我大穂、日本での就労ビザが下りてちゃんとギャラがもらえる状態になったチューバのGideon Jucksが加わる。



1stは芳垣+定村+曽我、芳垣+定村+田中、芳垣+定村+Jucksという、3パターンのセッション。2ndは全員揃ってのセッション。今にして思えば1stは、各々がどういう演奏をするのかをCMしていたとも思える。もちろん、面白くなかったわけじゃなくてその逆。だけど2ndはそれを上回った。音がそこに留まり続ける感じを5人が演奏する。変化は多い。だけど、そのバランス感覚。必要な音がわかっているような演奏。

色々と細々と手持ちを変えて演奏する曽我は、芳垣と2人で音楽の下地であり、表でもある。単純な演奏の部分をあれだけ充実させるのは、他では見た覚えが無い。

最もわかりやすい音を扱う田中は、前夜の繊細ながらもドライブするグルーヴとは違う演奏。まるで客の様に他の演奏を聴きこみながら、主役を目指さず音が入る。勿論音を出す瞬間は前夜と同じ様にへばりつくように音を出す。この人、ホントに面白い。あくまでも演奏という点だけに絞ったピアニストとして、個人的には最も面白い演奏者とも言える。

アクという点で最もわかりにくいチューバを扱うJucksは、それでもやはりベース音。気付かずとも耳は自然とその音を拾いながら、あるいはそれを中心におきながら全体を聴く。だけど、Jucksも吹き続けるような感じではなく、時々音を抜く事で場に音の変化までもたらす。

名前も知らなかった定村は、ヴァイオリンという楽器の演奏者が最も出したいと思えるような音やフレーズの印象が無い。主張しやすい音よりも、あえてエフェクトを使ったり単純なフレーズを扱ったりする。我を使わず演奏を考えているように見えた。

芳垣は、まあ、昨夜と同じく今更なのだけど、これらの全ては多分結局当然というか、やはり芳垣がコントロールしている。圧力を殆ど使わない打楽器の扱いは、いつ聴いても取り込まれる。文句、全く無し。



なんとなく、演奏が終わることを考えていないように見えた。それでも終盤、唯一といっていい様な熱を帯びた時間が来て、そこでは定村のワウを使ったようなヴァイオリンがエレ期のMilesのそれの様に聴こえ、で、また、何度目か知らんけど、エレ期のMilesバンドが目の前にいる気分になった。そこで演奏が終わるのかと思ったけれど、そこからさらに音楽を作り続け、単純な終わりを選ばなかった。



ステージは壁に張り付くスタイルではなく、中央で、コロシアム形式に近い状態。今夜の音は、SDLXという場を活かした音でもあったし、芳垣は客側を一回りするという、臨場感を出す演出とサービスを兼ね備えたいつものあれもやってた。



音を録音物に押し込むのはいつでもいくらも無理はあるはずだけど、場も含めて今夜の演奏は、特にどうしようもない。今年見た多々のライブの中でも、極めて印象に残るわずか数本の1つ。