ナスノミツル / Optrum / 大友良英 / 中村達也

月見ル君想フ」と聞いて、普通は何が頭に思い浮かぶか? オレは初めて聞いたとき、あえて古い表現を使ったバンドの名前だと思ったけれど、実際はライブハウスの名前だった。場所は青山だし、小洒落た感じ。それでも結構アングラなものをやる事もあり、そのうちいくことになるかもしれないと思っていたけれど、それが昨夜、初めて足を運ぶ事になった。

ナスノミツルがメインの「即効音楽場」の第二弾。面子はタイトルにあるとおりで、Optrumというユニットは初めて見る名前。とりあえずネットで調べ、アート臭漂う感じに嫌な予感を持ったけれど、まあいい。とにかく月見に向かう。

ハコとしては普通の大きさという感じで、大体スター・パインぐらいのサイズだと思う。今回は満員御礼だったという事。月見のHPでスタンディングは180名と書いてあったので、180名ぐらいいたことになる。あの大きさでは入れ過ぎだと思う。階段で見ているやつとかもいて、その辺は少し考え直さないと、場合によっては問題になると思うけど。

余計な事はここまでにして。まずOptrumの単独の演奏から始まる。Optronという創作楽器(蛍光灯)を持った伊東篤宏と、ドラムの進揚一郎という二人組。「さあどうですかね?」と何故か上から目線で音を待っていると、Optronという楽器が音を出す。Optronという楽器、蛍光灯が光ったり消えたりするので、それを生かすために照明を落とした状態で演奏を行う。そんな中で放たれた音は結構強烈。「おおお」と思う。ギターのフィードバック音が常に鳴り響いているような印象。それを音程を伴った状態でコントロールしていて、インパクトは強い。ドラムは何故かレーザービームを放ちながら音を出す。手数は多いし、リズムパターンのバリエーションも豊富で、Unbeltipo Trioの佐野康夫を彷彿させるなかなかの腕前。見くびってました、すみません。と、数分で思う。2〜3曲程度二人で演奏を行い、主役のナスノが登場。いよいよ三人でのセッション。このタイミングが丁度いい。というのも、Optrumは面白いけれど、30分も見れば飽きると思ったからで、あまり長い時間この二人で続けられると悪い印象も残ってしまう。だけど、30分だけと言う演奏時間ならばこのユニットは相当なインパクトを残してくれると思っていたので、ほどほどでナスノが登場したのはオレにとってのタイミングが良かった。ナスノが加わる事によってどういう演奏になるかと思ったけれど、基本はあまり変わらない。というのも、やはりOptrunは、音に色気が無いので、微妙なニュアンスを出す事は出来ず、一本調子な表現になると思う。それをドラムもなかなかタイトなリズムだけど、自分のパターンを崩す感じは無く、セッションでありながらも、ある程度決まりごとのあるような叩き方に聴こえた。そこになすのが提供していく音は、グルーヴであったり少々強めのアタックだったりしたけれど、音が少し埋もれていたと思う。音圧は増していたけれど、ナスノな瞬間というよりも、Optrumと一体化した感じの演奏だった。

休憩を挟んでの2nd。今回これだけの人数が集まった一番の要因であろう中村達也が登場。それに大友良英とナスノという布陣。達也は即興という現場においては、本人も自覚しているように修行中の身のようなもの。昨年の大友とのセッションではパワー溢れるドラミングは流石だと思ったけれど、少々個性に欠ける印象があった。それから半年以上経過した状態の達也への興味もあるけれど、やはり大友とナスノという組み合わせの作る音世界が昨夜の最大の関心事。で、やはり流石だった。Optrunの後という事もあるけれど音楽の表情が豊かで、過激な音であっても一本調子ではない。あえて隙間を作っても、それが必要な事を感じさせるし、圧巻な瞬間をいくつも用意している。ナスノは明らかにこのセットでの演奏の方がやれる事が多くて、オレは満足。大友も、まあ、格というものを見せ付けたと思う。そして達也。あまり手元は見なかったけれど、マレットでも使っていたのか、ドムドムした音の印象が強い。タムとかバスドラメインだったと思う。少し金物の音とか、スネアの甲高い音が欲しいところ。まだ、大友やナスノを刺激する段階とはいいがたいような気がするけれど、あの二人を相手の演奏という事を考えれば健闘したと思う。上がっていったところのパワフルな音は流石な感じだったし。ルックスも含めてカリスマ性もあるし、達也目当てでそういう客が集まってくる事を思えば、今後も達也がこういう音からも離れずにいてくれることは、アングラの場にとって、そして何より達也本人にとっても大きな意味があると思う。

3rdは全員揃ってのセッション。アンコールをはぐらかすために、最初からこのセットを予定していたと思う。最後という事もあり、かなりカオスなセッションで、飛び道具といえるOptrunの咆哮を大友が共鳴したり突き放したりして、ギターという楽器の真骨頂を発揮。ダブルなドラムは、進揚が硬く高い音で、達也がドムドムした音のせいか、結構調和していて、なかなかよかった。そういう強い音が溢れる中、ナスノは結局全体をコントロール。大友が自身のブログで「世界最狂のベーシスト」と書いている事の意味を、皆味わったはず。