Miles Davis

正直な話、80年代に入って復活してから、1991/9/28までのMilesの音楽を聴くことは殆ど無い。けど、ギリギリ間に合ったMilesのライブは当然その時代のもので、1990に伊豆で見た野外でのライブ。当時、知人が熱海に住んでいて、そいつが勝手に2枚、そのライブのチケットを予約して、「見に行くよな?」って勝手に決め付けられ、しかもその予約をオレがぴあでチケットに換えて、もちろん金は無いので前日にローカルな手段で電車を乗り継いで熱海に行ってそいつの住処に泊まって翌日伊豆でライブを見た。この時点でオレは80年代のMilesの音を聴いたことが無く、まあでも、あのMilesを見ているという現実があって、やっぱ、ちょっと興奮していた。けど、やっぱりMilesの音は殆ど覚えてなくて、カンペの様に何やらボードをバックに見せて指示を出していたり、最後はMilesが引っ込んで残ったメンバーの演奏が続くという構成だったのだけど、傾いた陽がいい感じにケイ赤城を照らしていた、ってのしか覚えていない。
まあ、そうやってライブをみたけれど、やはり80年代のMilesには興味を持てず、逝去後も、すぐに手にしたりはしなかった。けど、Milesの初の紙ジャケ化時に、なんとなく、購入。して、やっぱり、あまり聴いていない。のだけど、ちょっと前にリリースされた『Tutu - Deluxe Edition』は、あー、こういうやり方されると弱いなあ・・・ってなって、結局購入。恐らく10年は聴いてなかった『Tutu』を、久々に聴くことになる。
最初の曲がアルバムタイトルの「Tutu」で、「あれ?、これってMilesの曲?」って思う。耳には残っている曲だったのだけど、どう聴いてもJaco Pastoriusの曲に聴こえる・・・。『Tutu』はほぼMarcus Millerが作ったカラオケの上でMilesがラッパを吹いているというものなので、MilesのアルバムっていうよりMillerの思う音楽だろうと思うし、「Tutu」はそのMillerの作曲なのだけど、ここまでJacoな曲でいいんか?としか思えない曲だし、しかもそこでMilesのラッパはToots Thielemansのハーモニカの様に聴こえる・・・。結局『Tutu』はほぼその印象で終わってしまうのだけど、Disc2のライブ音源は、当たり前だけど縮こまっていない音があって、演奏を聴きたいという欲求に答えてくれる。しかもここでベースを弾いているのがMillerじゃないってのが、なんか皮肉に思える。でも『Tutu』も、レゲを取り入れた「Don't Lose Your Mind」は刺激的なモノがあって、こういう音をMilesに積極的に進言できる誰かが近くに居れば、晩年のMilesも、もっと、印象的なものを残すことが出来たんじゃないだろうか?って、思ったり、する。
こういうの聴くと、80年代のシンセな音について、思う。アナログなシンセで、しかもわずかな能力のシーケンサーを用いて作られた80年代のテクノ、特にデトロイトのテクノが、今聴いても気恥ずかしさを感じないどころか、ロックにおけるロックンロールの様に原点の強さを感じるのだけど、演奏の簡略化にしか見えないものは、単に安っぽい音楽に聴こえる。これって、他に手段が無くて、わずかな打ち込みに自分の思いを込めたとしか思えない音楽と、便利な楽器の代替品としてしか扱えていないモノの違いだと思う。