I'm Not There

結果的に前日の投稿が前フリになってしまった。昨日はとりあえず『I'm Not There』がイマイチという事を書いておこうと思って、書いてる時に「そういえば映画はいつからやるんだ?」と思って調べたらちょうど公開中だった。それで、どれぐらいの規模かと思ったら単館系。しかもライズ。暇なGWを過ごしているオレに、「行け」と言っている気がしてライズに向かった。

6人がBob Dylanを演じるという『アイム・ノット・ゼア』、期待はあまりしていなかった。別人格の6人がDylanという1人を演じていく。お互いが無関係でありながら、微妙に重なったりする。その為、1つのストーリーを追うというより、色んなものが錯綜するのをDylanという人物に当てはめながら作品を見る事になる。2時間を越える映画であるにもかかわらず、そして、結末のある内容ではないにも拘らず、最後まで飽きる事はない。6人が演じようが、描かれているのはDylanの事であり、それは結局つながっていると思えるだけのDylanに対する事柄をオレは知っている。だけどこの作品、Dylanを知らない人が見て楽しめるだろうか? 6人の主役がいるというとっ散らかった作品だから、ハッキリとしたエンターテイメントの作品しか楽しめない人にはこの構成自体が受け入れにくいだろうし、Dylanの発言やその変遷を知らずにこの作品を楽しみきる事は恐らく難しいと思える(少なくても『No Direction Home』ぐらいは見ていないとキツイと思う)。

だけどDylanの色々を知っていれば、Dylanを映画という枠で描くならこのやり方は肯定できる。Dylanの事実、プロテスト・シンガーとして名声を得て、その後ロックに転向して罵声を浴びるシーンを映画ならではの表現でうまく描き、有名なロイヤル・アルバート・ホール(?)で「Judah!!」と罵声を浴びるシーンの再現もある。そこでDylanは「You're Liar」と応えるけれど、その前にDylanは「I Don't Believe You」とも言っている。そしてその言葉を、ロイヤル・アルバート・ホールのシーンの前にDylan以外の口から2回ほど登場させている。構成が複雑なのにそういう仕込みもしてある。

劇中に流れる曲はサントラの『I'm Not There』からだけでなく、Dylanのオリジナルも多々使われている。その使い分けはハッキリしていて、Dylanを演じている誰かが歌うというシーンでは『I'm Not There』に収録されているものを使い、BGM的に流れる曲はDylanのオリジナルが使われている。それによって何故『I'm Not There』というサントラが作られたのかよくわかったし、アルバムとしては面白くない『I'm Not There』だけど、映画の中で聴いている分にはなかなか良かった。2枚組みを一気に聴くというマネをやらなければ、あのアルバムもそれなりに楽しめるという事。

エンド・ロールに流れるのはDylanの「Like a Rolling Stone」で、続けてSonic Youthによる「I'm Not There」、最後はAntony & the Johnsonsによる「Knockin' on Heaven's Door」というのもいい構成だったと思う。

そういえば、オレの最も好きなDylanの曲の一つ「Idiot Wind」の別バージョンが使われていた。あれってもしかして『Bootleg Series Vol.1-3』に収録されているヤツだろうか? 『Bootleg Series Vol.1-3』は金の無い時に手放して以来手元には無いのだけど、やっぱ買い直さないといけないのかもしれない。



なんか、結局Dylanからは逃れられない。