佐野元春

度々佐野元春の名前をブログに書いている。最近なら『僕らの音楽』を見て感想を投稿したし、その時に実はオレにとっては自分が聴く音楽の幅を広げる事に最大の功績をしてくれた人だという事を吐露した。なぜそんな事をあえて書いてみるかというと、一時期とても佐野元春を聴いている(た)なんて言ってはいけない様な連中ばかりとつるんでいた時期があったので、それ以来、なんとなく佐野元春という名前を口に出せなくなってきていて、そのセラピーのようにここに書く事で、そのうち普通に「佐野元春って結構いいんだよ」と言えるようになるような気がしている。

オレの記憶では、佐野(前回は頑張って元春って書いてみたけど気色悪いので止める)の新作を聴いていたのは『The Circle』までだったような気がしていたけれど、実は『Fruit』も持っていた事に最近気付いた。存在を忘れていたぐらい『Fruit』の音の記憶が無い。だけど『The Circle』も実はあまりアルバムとしての印象は薄くて、結局シングル曲だった「彼女の隣人」とか、「欲望」ぐらいしかパッと頭に浮かばない。でもそれ以前のアルバムは恐らく殆どの曲が頭に残っていて、リアルタイムで初めて手に入れたアルバムの『Cafe Bohemia』〜『Sweet16』までは個人的には申し分無い。さらに付け加えれば、実験的な形態だった『Electric Garden』やその第2弾、そしてブルー・ベルズも頭に入っている。『The Circle』あたりを聴いていた時期が佐野の名前を口にしにくい環境だったけど、それにもかかわらず隠れて聴いていたのだからそういう理由で佐野の音を聴かないようになったのではなく、記憶から消えていた『Fruit』があまりにもつまらなく感じた結果、佐野の作品をスルーするようになったのだと思う。

そして久々に佐野元春の新作『Coyote』を聴いた(実はTVを見た翌週には手に入れていた)。TVで「君が気高い孤独なら」を聴いて手に入れたことになるので、最悪でもその曲だけはオレの印象に残る事になることが保証されていたけれど、結果的にはアルバム全体を問題なく聴ききった。それは多分、この時期に聴くに相応しいサウンド・プロダクションであるという事がある。明らかなヘヴィーな音を持たないこのアルバムは軽快で、根底には絶対的なロックン・ロールがあるけれど、逆にロックは完全にそぎ落としたような印象もある。

佐野の歌う事は、青臭い感じを受ける人もいるかもしれない。だけどヒット・チャートにはびこるそういう類のものと一線を画しているとオレは思っていて、佐野の歌の視点には、映画監督の様なものを感じる。主演ではなく監督する立場からの言葉を含めた歌であり音楽。それは佐野が年齢を重ねるごとに手に入れたわけじゃなくて、そのキャリアのスタートから持っていた。

佐野の声、歌い方は、やはり圧倒的な存在感。他者のコーラスが入っても入らなくても問題ない。スローな曲での間の取り方、アップでのリズム感、声のコントロールはマネの出来ない個性。

このアルバムを仕事に出かける時にiPodで聴く事が多い。朝聴いても疲れないけれどしっかり頭に残る音になっているから、繰返し聴く羽目になった。果たしてこのアルバムが佐野のファン以外にどれだけアッピール出来るのかわからないけれど、普段ヒットチャートなモノしか聴いていないような連中は機会があれば耳にして欲しい。アヴァン、アングラ馬鹿はどうせ反応出来ないので聴くだけ無駄かも。









佐野元春Coyote




ちなみにDVDは、「君が気高い孤独なら」のPVと『Coyote』のスタジオでの録音風景。PVも殆ど金のかかっていないようなつくりで、この辺にメジャーではなくてインディーに移った事を認識させるけれど、音楽そのもののクオリティーには何の関係も無い。