Bob Dylan

Dont Look Back』は長年見てみたいと思っていたものの一つ。どうでもいいもののDVD化は進むのに、なぜこういうものがなかなかそうならないのかは、不思議な事の一つ。いや、DVD化ということに関して言えば、正確な記述じゃない。実は海外版の『Dont Look Back』のDVDは以前から存在していて、それが国内版としてDVD化される事が今まで無かったと書いた方が正しい。とりあえず軽く愚痴を書き、そのまま続けるとそれだけで終わるのでそれは後回しに。



今回初めて見た『Dont Look Back』の内容については、散々いろんなもので読んできたし、しかもMMの最新号がその特集(これが今特集すべき事なのか?という疑問はあったけれど、これが今のMMという雑誌の苦しさを表している)。うわさの、世界最初のPVと言われる「Subterranean Homesick Blues」の曲にあわせて歌詞を書いた用紙をめくるDylanの映像から始まる。この映像が大きな見所の一つなのだけど、だからどうした? 現在これを見て、当時、ここから何かの影響を受けた人がいたという事実があるという事の確認以外に、これを見て思う事は別に無い。要するに「ふうん」。その後はロック転向直前のDylanのイギリス・ツアーでの舞台裏というものが、プライベートな目線でカメラに収められているという事がこの作品の肝なのだけど、正直言ってそれも「ふうん」。歌って無くても、若きDylanの姿を見るというのはそれなりに楽しい。でも30分程度で十分。この作品のカメラマンであり監督のD.A. PennebakerはMMのインタビューで、カメラを意識していないDylanという事を言っているのだけど、まあそういうのは結局は妄想(或いは宣伝文句)で、実際には意識しまくっているとしか思えない(全てがそうとは言わない)。それはDylanに限らずDonovanやJoan Baez、Dylanのマネージャーに至るまで、明らかにカメラに撮られているという事を意識している場面が多く、自分たちが芸能界という場を使って注目される存在になったという事を意識している。それがありありとわかるのが『Dont Look Back』という作品であり、ここでの自然な振る舞いというものを見ていると、Dylanはこの時点ですっかり芸能人な世界の住人になってしまって、普通の社会では不自然に思えるような会話や笑い(笑いに関しては、日本人には理解出来ない「なんでそれで笑えるの?」というアメリカン・ジョークというやつなのだけど)が自然であるという事なのだろう。そういう事がよくわかるこの作品は、ドキュメンタリーとしては誠実なものかもしれない。

ちなみに見所の一つであるタイム誌の記者をやりこめるシーンだけど、あれはDylanの口上は結構破綻しているように思う。はぐらかそうとして、失敗して、無理やりになっている感じ。伝説というとオーバーだけど、そういうものというのは、尾ひれがついて大げさになるという事をそのシーンは教えてくれる。



ものがものだけに『No Direction Home』と比べられるようだけど、個人的には『No Direction Home』の方が面白い。で、『No Direction Home』だけど、発売後わずか一年で出しなおし。どうもCDケースサイズの紙ジャケに変更するらしく、内容は特に変わらない。紙ジャケを神ジャケとして扱う信者ども相手に一儲けするつもりなのだろう。だけど、既存のDVDは在庫一掃の為にかなり安く売られていて、発売と同時に購入したオレは呆れるだけ。









Bob Dylan 『Dont Look Back』