Jeff Mills

この人の新作を追わないようになって、もう何年も経つ。元々はAxisから発表された12インチがJeff Millsのメインの制作活動だったはずだけど、それをCDにコンパイルして、CDとしての流通が増え始めたあたりから、少しずつMillsの音を聴かなくなっていった。簡単に言うと飽きたのだと思う。

まあ、「Changes of Life」(『Waveform Transmission Vol.1』収録)という名曲に並ぶようなものはなかなか作れないし、どうしてもそれを求めてしまうというオレみたいなわかってないやつは、そうやって手を引いたほうがいいのだと思う。

だけど、新作がディスプレイされれば一応は目が行くわけで。大体は一度手にとって、なんとなく見て、それで下の場所に戻していたのだけど、今回の『Blue Potential』は、悩んだ末に、「悩んだら買っとけ」という誰かの名言が頭をよぎったので、久々にMillsの作品を買うことになった。

なぜ今回は悩む羽目になったかというと、『Blue Potential』はMillsの楽曲を、フランスのモンペリエ国立管弦楽団というクラシックのオケが演奏したものだったから。ダメそうな感じと、カッコよさそうな感じが頭に浮かび、一度聴いてみたくなった。だけどメディアはDVDで、これがCDならそんなに悩まないところだった。とりあえずウチに帰ってパッケージを開けてみる。「ん?」と思う、なんとCDとの2枚組みだった。これはツキがあると思い、DVDはほっといてとにかく音の方を聴いてみた。



Millsといえばやはりミニマルな打ち込みのイメージが強いわけで、それならばGlassなどのミニマル系の音を聴くのと大差なく聴けそうな感じもするけど、クラシックなGlassの作る曲と、元々DJなMillsの作る曲はそのベクトルが違う。そもそもMillsの曲に楽譜なんてあるのか?、と思ったりする。

これがオケじゃなくて、例えばKronos Quartetのような百戦錬磨の連中ならその仕上がりは保証されたものになるはずだけど、モンペリエ国立管弦楽団とかいうなんとなく間の抜けた名前の連中にあのミニマルグルーヴがわかるのか?とか、聴く前に余計な事ばかり考える。



管弦楽団という事で、例えばコントラバスあたりが通奏低音的にグルーヴを作るという事もありえると思っていたけど、実際には4つ打ちの部分はMills本人がドラムマシーンなどを使って再現していて、全てをオケに委ねているというわけではない。フレーズの交錯でリズムが感じられるところもあると言えばあるけれど、Glassのアンサンブルほどの凄さではない。オレの聴いていないMillsの作品に擬似サントラという作品があって、いくつかその作品に入っている曲が演奏されているのだと思うけれど、そういう曲はさすがにハマっている。

最初は、あのMillsの作ったフレーズを管弦楽器が奏でるというのは、予想以上にカッコいい。割とミニマルでは無い方のフレーズを持った楽曲が多く使われていて、それがシンセの音とは違う深い響きを表現している。

特に最後に演奏される、Underground Resistanceの名曲「Sinoc Destroyer」(『Revolution for Change』、『X-101』に収録)。この曲のもつ強烈なフレーズがオケで再現された音を聴けば、このプロジェクトが成し遂げたものはなんだったのかを感じるのは難しくないはず。



と、DVDがメインの作品のCDを聴いただけの感想だったのでアップを控えていたけれど、DVDも見てみたのでその感想を少し付け加えてみる。

ライブはポン・デュ・ガールという世界遺産である水道橋のある川原で行われた。そのロケーションはさすがにヨーロッパ人らしい芸術性を伴った選択なのだろう。

演奏そのものを映像で確認しても、個人的には印象が変わるものではなかったので割愛するけど、そのライブに関わった面々が登場してのドキュメンタリー部分では色々確認する事が出来た。Millsがクラシックのオケと共演する事に至った経緯や、オケと共演するにあたっての曲のアレンジの話等々、このプロジェクトが実際に実現するまでの話は最終的にライブの演奏に集約されるものだけれど、こうやってそれぞれの口から語られる事によってわかる事もあって、DVDの方は、ドキュメンタリー部分の方が興味深かった。




単純な思考のオレは、今Jeff Millsの作品を聴きかえしている。最近の作品は持っていないので、UR時代から『From the 21st』辺りまでの作品になるのだけど、キャリアの最初期から、やはり単純に踊る為だけの音とは違うものが感じられる。

まあそれがMillsの音を聴いていた理由だし、今更な話だけど再確認も必要なのだろう。そしてそのせいで、聴いていない最近の作品も聴きたくなってきた。



Mad MikeJeff Mills。あのURの2人は今は違う方向に進んでしまったけれど、どちらもいまだに音楽的に進み続けようとする意思が感じられる事が、テクノやエレクトリック・ミュージックを狭い枠からはみ出させたのだと思う。