Vincent Atomicus

このBlogに書いてあるライブの大半は日本国内のアンダーグラウンドなジャズ / アヴァンギャルド系のライブだけど、元々そういうライブを数多く見ていたわけではなくて、どちらかといえばスタンディングでリズムをとる余裕のあるライブがメインだった。そういうライブで今まで一番カッコよかったものは、Kip HanrahanのDeep Rumbaの初来日公演。なにがカッコよかったかといえば、あのリズムのことになる。跳ねるようなリズム、躍動感という言葉は多く使われるけれど、Deep Rumbaを見て以降、オレはこの言葉をどっかのリズムに当てはめるのは難しくなった(それでも使っていたけど)。残念だったのは、ブルーノートなのでシーティングでのライブだったという事と、その翌年(翌々年だったか?、失念)に再来日した際にはリズムは抑え目で、歌がその中心にきてしまっていた事。それはそれでよかったのだけど、もう一度あのリズムノアラシを体感したかったのというのが本音だった。



そのDeep Rumbaのライブから数年経って、やっと本気で躍動するリズムという言葉を使いたくなったのはVincent Atomicusのライブを昨年末に見た時だった。芳垣安洋という、いまでは日本を代表するドラマーの率いるVAは、その芳垣が他のバンドではあまり見せない(というかオレが知らないだけ)グルーヴィーな演奏を行う。しかもVAにはラテン系パーカッションの岡部洋一という素晴らしいパーカッショニストが加わっていて、この2人の叩き出すリズムは、Deep Rumbaがドラム×2+パーカッション×2という編成で作り出していたリズムと同じ興奮を味あわせてくれる。



昨夜のピットインはそのVAのライブ。このグループのライブは立ち見状態まで集客があることは承知済み。さらに普段ピットインに来るような客とは客層が異なる。

チューニングの様にステージ上で音が鳴り出す。それが少しずつ増えていき、チューニングだと思っていた観客も、演奏が始まっていることに気づき始める。そうやってイントロダクションが作られている中、水谷浩章のベースが、はっきりとしたベースラインを提示する。「Eatborfa」だ。オレはVAのアルバムは『Vincent III』しか持っていない。「Eatborfa」はそのアルバムのトップに入っている曲で、メチャクチャカッコいい曲。水谷浩章のベースラインがメインテーマだと考えてもいいと思うのだけど、このベースラインが嫌になるぐらいカッコいい。昨年末のライブではこの曲は聴けなくて少し残念だった。それがいきなり1曲目。個人的にかなり盛り上がる。続けて演奏された曲も、知ってる曲なのか知らない曲なのかよくわからずとも、「Eatborfa」と同じくカッコいい。1曲目2曲目ともに長めの演奏。次の演奏は「楽しい曲を」という事で、何をやるのかと思えば8人いるメンバーを2つに分けて、ダブルカルテットでのセッション。片や芳垣 / 勝井 / 水谷 / 高良、片や岡部 / 太田 / 青木 / 松本という編成。片方が演奏を行っていると、もう片方が別の演奏で割り込むという、仁義無き戦い。これが凄く面白い。ジャジー、ハードコア、わらかし、やらかし、と、やりたい放題で、一小節分の演奏すらさせずに割り込んだりもする。それを楽しく聴いていると、ある瞬間から全員が音を出し始め、曲の演奏に変わる。そしてここからがこの夜のハイライト。バンドが渾然一体となる瞬間。強烈なグルーヴと、サイケデリックな音の響きが完全に一体化して、70年代のMilesバンドはこんな感じだったんじゃないか?と、思わせるような強烈な音の情景。完全に圧倒される。

ここまでが1stセットで、定刻の20:00を15分ぐらい過ぎてからのスタートだったけど、この時点で21:30ぐらいで、1stセットが1時間を越えるという、この手のライブでは珍しい状態。休憩を30分ぐらい取るのかと思っていたら、15分程度に抑えて、2ndセットに。

2ndは「宗教音楽」と芳垣が何度か言っていたように、どこかの民族音楽を思わせる曲。この曲では太田が民族音楽っぽい歌声を聴かせるのだけど、これがなかなか上手い。はまっていた。そして曲は途中でタイセイの曲にメドレーしていたらしく、それもテンポが従来より速めのテンポだったらしく。演奏終了後「今までで一番速かった」といいながら腕を振る芳垣。そして岡部も大変だったらしく、「2人故障」などと和気藹々とステージ上で話していると、次の曲のスタートを取る太田が、「次の曲のテンポは私が握っている」などと言って笑いをとる。そして演奏された「くつわむし」という曲はタイセイの作った曲で、前回のライブでも聴けた曲。これがらしいというのか、牧歌的なメロを持っていて、1度聴いただけだったにも関わらず、すぐに前回のライブで聴いた曲だとわかった(オレにしては珍しい)。続いては芳垣が敬愛しているらしいLester Bowie(Art Ensenble of Chicago)に捧げた曲で「Lester B」というレゲエ。これが珍しく隙間の多い演奏だったけれど、ところどころで岡部のパーカッションいダブっぽいエコーが使われていて、「そんなものも仕込んであったか」と思って聴いていた。そして何気に岡部の手元を見る。オレがエコーで処理しているとおもっていた音は、なんと岡部が自身のスティック捌きで演奏しているものだった。恐るべし。

2ndの最後は、まるで何かのレビューショーのように、太田と勝井のヴァイオリンの音にノリながら、芳垣が各メンバーを紹介。そのまま曲の演奏を行って、本編終了。

「本当はプロらしく、一度引っ込んで10分ぐらい拍手を引っ張りたいんだけど」と芳垣。「だけど、引っ込むのが大変なのでこのままアンコールをやります。プロの片鱗を見せ付けられなくて残念。」といいながら、アンコールに前回と同じくバラッドの「屋上の飛行機凧」を演奏する。この演奏、この日2度目のハイライトだったと思う。この曲のメロを活かしながら音響的な効果を勝井と太田のヴァイオリンで作り上げ、そこに色んな要素が絡まっていくといった演奏。はじめは小物中心に音を出していた芳垣と岡部が、演奏が進むに連れパーカッションのアプローチが増えていく。そして終盤ではキョウレツナリズムを叩き出したにもかかわらず、聴いているほうはそのリズムが上モノとして響いてくる。2人がシンクロして同じリズムを叩き出しても、ゆったりとした音響がリズムを主役にさせず、あまり味わったことの無い混沌を作り出していた。



今回、特に目に付いたのは青木タイセイだった。今まで、ONJOなどでもその演奏を聴いていたけど、個人的に特筆に価するような感じは無かった。今回も、特に前に出て主張するような音を連発していたわけではないけれど、メインのトロンボーンで太い音を聴かせたかと思えば、フルートでの軽やかな音、さらにキーボードやピアニカを時折演奏し、1stのセッション時には、岡部カルテットのベーシストとして活躍。そして、芳垣主導のVAでもその楽曲を取り上げられる。まさしくユーティリティープレイヤーといえるそのスタンスは、一つのスタイルとしての意味を持っている。




VAに限らず、リズムのキョウレツなバンドほどライブでは映える。その中でもVAは特にそう思えて、昨年末にライブを見て以降はあまりCDを聴いてなかった。だけどこのバンドは曲もカッコいいものが多いし、1st2ndも買ってみる。というか、既にamazon.co.jpにオーダー。