Bruce Springsteen

ダサいロックの代表格みたいな扱いを受けるようになってから、オレはBruce Springsteenが好きだという事をあまり人に言わないようになっていた。まあ、オレ自身も一時期はSpringsteenの音楽を暑苦しく感じていたし、だから隠すと言うよりも単純に聴かなくても済んでいたという事もある。そうは言いながらも新譜が出れば購入していたのだけど。

今年発表された『Devils & Dust』は深みのある音で、この境地に達してくれた事を嬉しく思う。この音は、現在のアメリカの最もリアルな音だと想像出来るし、それは日本に住む者にとってもリアルな音であると思う。



そのSpringsteenが『Born to Run』の30周年記念リマスター盤を出した。『Born to Run』はSpringsteenの代表作であると同時に、間違いなくロックという音楽を代表する1枚だと思う。

1975年に発表されたこのアルバムは、シンプルなロックンロールというスタイルの完成形だと思う。その音からは想像も出来ないほどの時間、約半年の時間をかけて作られた。

そんなアルバムの30周年記念という事で、従来のLegacy Editionシリーズとは別格扱いのCD1枚+DVD2枚という組み合わせでのリリースになっていて、Springsteenのファン以外には手を出しにくい代物になった。こういうものにはケチを付けたくなる性分のオレも、このアルバムをこういう形態でリリースした事には文句をつけない。このアルバムは、それぐらいの事をしてもいいものだと思うから。

リマスターされた音を聴いて、その音質の事よりも、やはりこのアルバムの凄さという事を再確認している。オレの最も好きなトラック「Thunder Road」に始まり、アルバムタイトルであり「この曲を知らないヤツがいるのだろうか?」と思えるほどの代表曲となってしまった「Born to Run」を中間(アナログ時にはB面のトップ)に配し、そして一大抒情詩の「Jungleland」で締めるこのアルバムは、40分という短い時間を濃密なものにしてくれる。




今回新たに加えられた2枚のDVDのうちの1枚は、『Born to Run』を発表した1975年にロンドンで行われたライブを完全(?)に収録したもので、この時代の数少ないマトモな映像。ここには若かりしSpringsteen、今からは想像し難い華奢な体つきのSpringsteenの姿がある。その姿を確認しながらの2時間を越えるこの映像は、ステージの暗さやカメラの配置の問題などがありながらもあっという間に終わってしまう。

もう1枚のDVDは『Born to Run』製作時の事をSpringsteen本人やE Street Bandのメンバー、プロデューサーのJon Landou等の証言を交えて振り返るという内容。最初は「こういうものはつまらないもの多いんだよな」と思っていたけど、今までにも文章では目にしていた数々の発言や初めて聞くような事が、映像で語られるというのは意外に面白かった。

アルバムを聴いて2枚のDVDを見ると4時間半を越えるけど、それだけの時間を費やす価値は十分にある。