Aug.21,1952 - Dec.22,2002

あれから3年が経った。

オレがライブを見ることに焦るようになったのは、それからだった。その年の9月、オレはたまたま渋谷のHMVで彼がイベントを行っている現場に遭遇した。HMVの2階、ブラックミュージックのフロアでそのイベントは行われていた。ここでイベントが行われているのはよくある事で、その人だかりを見ながら、「鬱陶しいな。今日は誰が来てるんだ?」と思って告知を見る。そこには彼の名前があった。



オレは一時期ろくに働きもせずにただ遊んだり、ふら付いたりしていた時期があった。

その頃は既に東京に住んでいて、自分で家賃を払いながら生活していた。だけど働かなければ当然金は無い。生きていく為には、家賃と税金、電気、電話、ガス、水道、などの料金を払って、食っていかなくてはいけない。金は無いから、誰かに頼った事もあったし、小金を稼ぐような真似をしたこともあった。それでもいよいよどうしようもなくなると、タバコはシケモクに変わり、食べるものは一日一切れのパンだったりもした。食べる事はそれでもいい。いくらか諦めがつく。でも、家賃を払えなければ雨風をしのげない。そんな時オレは、手持ちの唯一金に替えられる物だったCDを店に持っていった。そうやってギリギリをやっていると、オレのCDは当たり前に減っていく。何百枚かあったそれは気がつくと50枚を切っていた。そしてそこから、また30枚ほど金に替えないと、支払いが出来ない状態になった。オレは手持ちのCDを眺めながら、絶対に手放せないものを選んだ。そこには『London Calling』が残されていた。



HMVのイベントは既に演奏が終了していて、彼がファンにサインを書いている最中だった。そこに並ぶ資格の無いオレは遠目でも一目でもいいから彼を見たいと思った。大勢のファン達の隙間から一瞬彼の姿を確認して、安心して、その様子を眺めていた。

突然イベントの主催者からアナウンスがある。「イベント終了の時間なので、サイン会は終了です。」サインを求めて並んでいるファンはまだ沢山いた。彼らは失望の声(大きな声じゃなかった)をあげた。失意の空気が溢れていた。諦めきれなくて立ち去れないファン達。

それから少し経って再度アナウンスがある。

Joe Strummerの希望により、今並んで頂いている全員にサインが終わるまで続ける事になりました。」

よくあるような話かもしれない。でもオレはそういう場面を初めて見たし、この時の空気が変わっていくのを感じた。それがオレが目にした、たった一度の彼の姿。



遺作となった『Streetcore』がここにある。

昔、「¿Yo me frio o lo sophlo? (Should I Stay or Should I Go?)」と歌っていた姿は無い。あの張り詰めた音は無い。だけど誠実な歌声は変わらない。