Emergency!

今年はたくさんライブを見た年だった。本当は月に一本ぐらいが丁度いいような気がするのだけど、ここ一ヶ月ほどは熱に浮かされたように、とりあえず見たいものは全部見てしまえという感覚に陥っていた。

自分の好きな海外のミュージシャンを見るチャンスが二度とない状態になったという事が続いた時に、なるべくそういうものは見逃さないようにしようと思ったのだけど、それに加えて今の日本のジャズ〜アヴァンの音楽の充実ぶりが歯止めを効かなくしてしまった。

それも18日のEmergency!でとりあえず終わった。Emergency!をライブで見るのは初めてで、今回は+板橋文夫(Pf)という、願ってもない布陣。Emergency!は、芳垣安洋(Ds) / 大友良英(G,Electronics) / 斉藤”社長”良一(G) / 水谷浩章(B) という、ゴリゴリに太い強い音を出してくれる面子が揃っている。CDで聴いているだけでもこの音の太さ、強さは、半端じゃ無い事がわかる。社長のギターをライブで聴くのは久々で、かなり期待。などと考えながら、四夜連続で新宿ピットインに向かった。



前日のVincent Atmicusに続いてかなりの客。さすがにEmergency!も知名度上がってる。

メンバーが入場し、芳垣がMCで「語り草になるような演奏」をしたいと言い出す。気合入ってる。

1stセットは「Sing Sing Sing」からスタート。いきなりトバス。圧巻。まるで最後の演奏の様な力の入り具合。マジで芳垣が最後の「ダダン」とやった瞬間はライブの終わりかと思った。

すぐに切れるギタリストの社長は初っ端から切れまくりで、「血管切れない?」と思うほど。大友も慎重ながらもらしい音を入れてくる。初めて生の演奏を聴いた板橋も奇声を発しながらの熱演。水谷のベースは全体の演奏をギリギリ一つにまとめる枠割を果たしている。芳垣は他の奏者を煽るような音で、「尊敬している」はずの板橋にも睨みを効かす。

続いてオリジナルの「Run and Run」。「Sing Sing Sing」ほどハイテンションではないけど、その分音の抜き差しが研ぎ澄まされていて、二人のギタリストの音をやり取りに緊迫感がある。

3曲目はMingusの「Better Git Hit in Your Soul」。「いつもは馬鹿ロックブルースな演奏になるけど、今日は少しおさえて」と芳垣が言うと、「大人の演奏を」と大友。結局「超馬鹿ロックブルース」になってた・・・。

ほぼ一曲ごとにMCを入れていたのだけど、4曲目に行く前のやり取りが笑えた(いうまでもありませんがセリフは大体の記憶です)。

芳垣「次の曲は、あまりメインストリームではないミュージシャンが取り上げていて。例えばRoland Kirkとか、大友良英とか」

大友「ああ、やってましたねえ。(笑)」

芳垣「やってたよ。オレも一緒にやってただろ」

水谷「とういか、メインストリームじゃないの?」

芳垣「(笑)オレ達がメインストリームなわけないだろ。もしそうだったら、えらい事になってる。CDの売上が二桁変わる。」

大友「でも、二桁増えても、メインストリームじゃないかも・・・。」

芳垣「・・・。ぜひ皆さんのお力で、オレ達をメインストリームにして下さい。そういう願いを込めて次は「小さな願い」を。」

・・・、台本あっただろ?

で、この男臭いメンバーで「I Say a Little Prayer」をやるわけだけど、これがメロディーを活かしたセンチメンタルさも感じるような演奏で、場内の女性ファンの心をぐっと掴む(多分)。

休憩を挟んでの2ndセットは、聴いた事あるけど曲名を覚えていない曲で始まる(多分Emergency!のオリジナル)。

続いてスイングの名曲「Creole Love Call」をまたもやゴリゴリの演奏で、「スイング」と言う単語の軽やかなイメージをブチコワス。そして、「美しいバラッド」と芳垣が言った「The Inflated Tear」。

この演奏がこの夜のハイライトだったのではないだろうか。社長以外のメンバーが微弱な音を使って、それまでのランチ気味の演奏の場の空気を変える。緊張感漂う時間。固まっている社長。音の破片が散らばったその中に、突如社長のギターからこれ以上ないタイミングで「溢れ出る涙」のテーマが飛び出す。体が震える。だけどこのまま曲に流れ込まない。またも微音の展開が続く。そして再度社長のギターからテーマが提示される。テーマが繰り返される。徐々に他の奏者がそのテーマの為に音を合わせだす。体温があがる。緊張感を伴いながらも、切れ始める社長。呼応する大友。煽る芳垣。間隙を付く板橋。一人で必死に音楽を支える水谷。音が徐々に膨らんで、それが限界で破裂するのも目の当たりにしたような演奏だった。

2ndセットの最後はMigusの「Fables of Faubus」。オリジナルのDolphyのソロも凄まじいけど、Emergency!も勿論負けていない。

アンコールは「Good Night」。The Beatlesの名曲を甘くない音で優しく聴かせる。