Lou Reed

数ヶ月前に購入した『Spanish Fly』を、改めて見てみた。これは最新のツアーの模様を収めたDVDで、実際に見てみるまでは『Animal Serenade』の映像版だと思っていた。ところが『Spanish Fly』は、ドラムのTony "Thunder" Smithが入って、Antonyが抜けているという布陣で、『Animal Serenade』の映像版というわけでは無かった。オレは『Animal Serenade』というアルバムが大好きで、だからその映像版を望んでいたのだけれど、まあ、仕方ない。『Animal Serenade』の時のツアーは新宿厚生年金会館で見たので、それを自分の頭の中で思い出せばいいし。あの太極拳マスターのパフォーマンスは、もう一度映像で見たかったけれど。このDVDは、Fernando Saundersの美しいバックコーラスが全編にわたって聴く事ができるし、「Sweet Jane」なんて苦みばしったAOR的だったりして、全体的にアダルトな感じが強い。それでも、「Venus in Furs」でのJane Scarpantoniのチェロのソロや、「Ecstacy」でのLou Reedのギターソロは強烈な音で、いつまでも尖り続けたままのLou Reedの音を聴く事が出来る。



オレがLou Reedの音を聴くようになったのはMTVの全盛期で、TVの音楽番組でチラっとLou Reedが紹介されたのを見た事がきっかけだった。その時は「なんか妙なオッサンだな」と思ったのだけれど、その妙な感じが頭から離れず、当時の新作『Mistrial』を購入。あまり評価の高くないアルバムだったけれど、Lou Reedの個性は感じることの出来るアルバムで、そこに載っていたライナーや、雑誌やロックのムックなんかを頼りに、Lou ReedThe Velvet Undergroundという伝説的なバンドを率いていた事を知る。VUは、Andy Warholとかいうゲージュツ家のオッサンが絡んだバンドで、その1stアルバムの表ジャケットには、バンド名が記されずにそのゲージュツ家のオッサンの名前が記されているとか、そのジャケットのバナナの絵はシールになっていて、剥がすとピンクに熟れたバナナの身の絵が書いてあるとか、そういう事を知る。なんか胡散臭いと思いながらも、その1stの再発盤が¥1,800という安値だったので、これを購入して、結局その音にはまり込む事になった。「Sunday Morning」で始まり、「Heroin」で幕を下ろすこのアルバムは、音楽を聴く時に同時代性を重視するオレにとって、初めてその枠を取り払ったアルバム。MTV全盛の時代にあの音は、かなり衝撃的だった。その後、『Transformer』や『Berlin』といったソロの初期の作品を聴き、完全にその音にのめり込むことになる。そういうキャリアの最初期のアルバムを聴いていると、どうしても『Mistrial』は劣勢な立場になり、やっぱりこの人も全盛期を過ぎてしまっていて、今現在では、傑作と呼ばれるような作品と並ぶようなものは作れないのだろうと考えていた。だけどその考えは、89年に発表された『New York』で改める事になる。仕切り直しの様に始まる1曲目の「Romeo Had Juliette」が流れ出した瞬間から、Lou Reedはオレにとっても同時代のミュージシャンだという事を思い知らされた。『New York』から現在のところ最新作『Animal Serenade』までの全ての作品が聴くに値する音で、こんなミュージシャンはLou Reed以外に見当たらない。オレはLou ReedやVUの音を知らなければ、Eric DolphyDerek Baileyの音にも反応できなかったかもしれない。



要するに、オレにとってLou Reedは最重要人物だという事。