2011春 梅津和時・プチ大仕事@新宿PIT INN Breath&Voice

何日か前に書いたログで、「ガタガタ言って日和ってんじゃねーよ」という様な事を書いたのだけど、あれは七尾旅人に対して思った事。歌う事を望まれた七尾の呟きに苛立った。苛立ったのはそれが七尾だからで、他の歌手にはそんな事思わない。勿論、SFUがそんな事言えば苛立ちを通り越してある意味諦めになる。けど、SFUはそんな事はない。
徐々に七尾の歌を知って、その発言とかを見ていて、初めて、自分より歳下の歌手に引かれた。他人がどうかは知らないけれど、明らかに自分より下の世代の歌手のその言葉に対しては、それをそのまま受けれることは出来なかった。歳の違いは経験の違い、いくら言葉巧みであろうが、歳を取った分人は必ず何かを経験している。なのでどうしても、若い歌手の言葉をそのまま受け入れる事は出来なかったのだけど、七尾の『billion voice』は何度も聴いてしまった。そして観念した。オレはこの男の歌が好きだとハッキリした。
毒づいたりやんちゃしたりする七尾だけど、この男の歌と声は根本にある優しさの塊だと思う。この感じは、繊細な感受性の強さだと思ってしまう。だから、あのショッキングな震災に動揺してしまうこともわかる。けど、だから、勝手にハッパをかけたかった。まあ、七尾がこのログを見るわけじゃないけれど、とにかくそう思ってあれを書いた。
その後を見ていると、七尾は自分のやれることを最大限やりだした。それを見てホッとした。この男は歌い続けてもらわなくては困る。その姿を確認できる機会が今夜。しかもピットイン。梅津和時のライブのゲストという扱いだけど、こういうライブでは梅津さんはハッキリと相手に主導権を渡す。それがわかっているから、今夜のライブはメインの梅津さんではなくて、初めから七尾の歌を聴く事を目的にしていた。
ライブは、七尾の自作や選んできた曲に梅津さんが即興で合わせるスタイル。色んなサックスを聴いてきたけど、梅津さんは最も器用な奏者。どんな種類の音楽でも、すぐにこなしてしまう。その圧倒的スキルだけじゃなくて、何よりも音色で歌ってみせる。七尾の歌とギターとエフェクトと、芳醇な梅津さんのサックスやクラリネット。たった2人が作った音楽は、刺激と説得力とやるせなさが絡まっていた。
若干感傷的になった1st。七尾が震災後に作ったという新曲「帰り道」と、同じくその立場で作った梅津さんの「東北」が続けて演奏された。それぞれが独奏。梅津さんはおおたか静流につけてもらったという歌詞で「東北」を歌った。どちらの曲も、感情がそのまま音になっていた。
2ndは、1stの流れを変える様に、ハコがピットインという事で選んだであろう「シャッター商店街のマイルスデイビス」で、吹っ切れた七尾の歌。数回しか聴いていない七尾のライブでの歌声では、こんな強い声を聴いた事が無かった。感情の入り方はパンクのそれ。そして『billion voice』で参ってしまった、「どんどん季節は流れて」と「Rollin' Rollin'」。更にアンコール様に用意していたというRCサクセションの「いい事ばかりはありゃしない」でブチきれる。感情入りまくりの梅津さんのサックス。
アンコールは、ピットインを出来るだけ暗くしてもらって、「What a Wonderful World」の七尾バージョン。ここでの言葉を使った演出は、七尾のらしさ。
今まで聴いた七尾の歌は仮性だった。今夜はズル剥けだった。これが元々なのか以前と変わった姿なのかオレにはわからんけど、このズル剥けは強烈だった。ここから先七尾はそれを持って、それでも時々迷うだろうけど、歌う事を続けるはず。