日野皓正 カルテット

まさかのヒノテル。ヒノテルですよ。ヒノテルのライブを見る事があるなんて、全く想像した事が無かった。あのヒノテル。日本のジャズのトランペットと言えば、真っ先に名前が挙がると思われるヒノテル。一応、最近のプーさんとの録音のヤツは持ってるしログにもした。更に、多分今のところの最新作『寂光』も実は持っている。でも、なんとなく、ライブを見に行く対象としては考えた事が無かった。だけど考えが変わったのは、ピットインの10月のスケジュールを見た時。ヒノテルの2daysの予定の面子、ドラムが田中徳崇でベースが須川崇志。八木さんの2つのトリオの一方のドラムンベース。あの2人がヒノテルのバンドの面子。それに驚いて、なんかもの凄くタイミングな気がして今夜足を向けた。今日か明日か、どっちでもよかったけど、水曜より火曜の方が空いてるだろという理由で今夜にした。
まず客席が面白い。前夜とのギャップ。平均年齢が倍どころか3倍ぐらいな雰囲気。全く客層が重ならない。これが、オレの音楽の聴き方の狙いでもあるけど、こうやって見事に目の当りにするとホントにこういう聴き方でいいのだろうか?、という気分にもなった。まあ、いい。よな・・・。そういえば、「キム・ヨナが新コーチを発表」ってニュースがあった。
当然耳の向きは若い、日本ジャズ界きってのイケメンなコンビに向けるのだけど、だけど、やはりヒノテルのラッパの音が無視できない。ガッツリというか、大きく艶やかに響く。時折、日本の若いラッパ吹きが演奏するのを聴く機会があるけれど、彼らにこういう音は聴いてない。御齢68とか。だけど、こんなにぶれなく音を響かせるという目の前にビックリした。バリバリ。
ピアノの石井彰は、こっちもなんの遠慮もなくジャズな演奏。オレがライブで聴くジャズは95%ぐらいがフリーなジャズなので、こういう流れるようなピアノは、ホントに、うーん、、、記憶に無い・・・。
そして今夜の狙いのドラム&ベース。バックアップとしては、あくまでも堅実。ヒノテルという大先輩に余計な仕掛けをかけて行かない雰囲気。だけどそれぞれ、いかにもジャズらしく用意されるソロ部分で新進らしい挟み込み。田中のあの、ジャズ的じゃないビートの持ち込みは、じゃあロックのドラムソロで聴けるのか?と言えば、ロックじゃますます機会なし。なんだろね、あれ。この流れでこういうソロ持ってくるか?、面白すぎじゃねーか。と。
個人的には、若手のベーシストで興味を引かれたことは少なく、唯一エレベのKenKenが頭に浮かぶけど、アコベでは皆無。それだけ、ベテランのベーシストが豊富だという事でもある。そこにやっと、若手で耳を引いた須川。それなりに何度かライブの音を聴いてきた田中とは違って、八木さんのライブでの演奏を2回聴いただけだった。その八木さんとの演奏は、フリーな面が強い演奏だけど、このカルテットはそういう場面の印象は無い。そこでの須川の音を聴いて、とことんジャジーに響かせるんだな、と、当たり前の事を思った。個人的にアコジャズにおける最も魅力的な音はアコベで、それを担当している須川はそれを裏切らない。だけど彼も、かなり音数を間引いたソロを挟み込んだりして、見せ場ではジャズだけからじゃないものを提示。そして意外なことに、アルコが全く無い演奏だった。
2ndの中盤、短い演奏が3つ続いた。まず石井のピアノ独奏。次にドラム&ベースのみで演奏。そして、ヒノテルのラッパの独奏。ここでヒノテルは朝顔をピアノの内部に向けて演奏する。この時の音、一瞬なにかエフェクトの仕掛けがあるのか?と思うような別の音が出てくる。これは多分、朝顔から吐き出される空気がピアノの弦に触れて音が響いてたのだと思う。これが唯一の特殊奏法。この音とラッパの音の絡みが美しい響きで、この音は当分忘れない。