弦動力!

ピットイン、八木美知依トリオ+αのライブ。20絃と17絃箏の八木さん、ベースのTodd Nicholson、ドラムの本田珠也がそのトリオ。そこに来日中のチェリストHugues Vincent、そしてドラムの田中徳崇。



基本トリオでのライブにゲストが加わるのかと思っていた。1stはトリオで2ndからゲストが、、、というパターンかと思っていた。

八木さんのブログに演奏予定曲が書かれているので、それを使って以下。



1stの最初、トリオで「殺しのブルース」。八木さんのライブではお馴染みになりつつある。八木さんの口上と加えて本田とNicholsonのセリフのやり取り+黒メガネ装着が挿入される。そこはユーモラスな雰囲気になるのだけど、結構キメキメなテーマを持つこの曲をあえて中和させているのかも。

続けて、今夜のハイライトの1つといっていい「Seraphic Light」。これはJohn Coltraneの曲で『Stellar Regions』に収録。まあその事自体は今ネットで調べたのだけど、聴き覚えはあった。この演奏でVincentと田中が加わる。この日はトリオのライブではなくて、『弦動力!』という事。ここでのツイン・ドラムの迫力。本田と田中のどっちがどれを叩いているかを聴き分けるのをやめて、圧巻な音の数に浸る。このコンビ、某ミュージシャン風に言えば本田中。この後終始音の扱いのセンス溢れるVincentのチェロと八木さんの箏は曲の持つスピリチュアルな雰囲気を独特に醸し出す。それら主張の強い音の中でNicholsonはこの曲がジャズである事を踏み止まるように健闘。凡百のフリージャズなユニットが吹っ飛ぶような迫力。

続く「MZN3」は、3年ほど前か、SDLXで八木さんがMZN3と共演した際に書いた曲との事。現代的なジャズ曲という感じで、例えばMotifの曲と言われても納得する。こういう曲を八木さんが書くというのが面白い。

1stの最後は新曲の「十六夜」。ここでは本田休。パワフルにど真ん中を突く本田よりも、若干アブストラクト気味な音を並べたりする田中をあえてという事? 癒しの雰囲気があるこの曲、今後八木さんの重要な曲になりそうな予感。



2nd、「Song of the Steppes」という曲で幕開け。演奏の開始も告げず八木さんが独奏を始める。ハミングな歌声と箏の音色だけ。幻想的。やっぱり八木さんの独奏は音色が強烈。

他の演奏者がステージ揃って、まるでインプロの様な演奏が始まる。インプロだと思っていたのだけど、「Monsoon」というタイトルがついていて、これはIngebright Haker FlatenとPaal Nilssen-Loveとの『Live! at Super Deluxe』の1曲目のトラックにそのタイトルを見つけることが出来る。そこから連なるように印象的なカッコいいベースラインを持った「Rouge」。「Seraphic Light」の演奏並みに音が跳ね上がるけれど、ジャズへの葛藤が感じられ無い分、演奏の自由度は高かったように思う。

2ndの最後は「Deep Green Sea」。『Seventeen』でもクロージングの曲。ここはストリングス・トリオで、という事で本田中休。3つの弦楽器の絡み、ヤバイぐらいに美的でした。



アンコールは多分インプロ。ガッツリじゃなく、それぞれの音が滑り込むように並ぶ。そのまま1時間ぐらい続いてもよかった。



それぞれの演奏者の音が印象に残る。とにかくツイン・ドラムがこれほど面白いと思った事は無かった。ビートがこれだけ芳醇だと、若干ベースの印象は弱くなるけれど、奮闘するNicholsonはピッチカートだけじゃなくアルコでもかなり魅力的で、八木美知依トリオのこれからが楽しみ。そしてVincent。時折エフェクトを使いながら発するチェロの音色は文句無し。この後日本での演奏が続くようなので、まだこの音を聴いてない人はこの機会を逃すともったいない。そして主役の八木さん。インプロヴァイザーとしての演奏ではない、あくまでもこの夜のリーダーとして音楽をコントロールしながら、八木さんしかない音を散りばめる。色々と演奏を振り分けたことも含めて、ここまで魅力的だったライブは実は少ない。