Bondage Fruit

この2〜3年程は、年に数回鬼怒無月の演奏を聴く機会があった。だけど昨年はそれが少なく、パッと思いつくのはThe Duoでの演奏ぐらい。その鬼怒の3daysが今夜からピットイン。この条件なら、昨年までのオレなら3daysとも足を向けたはず。だけど今回は今夜のBondage Fruit1本に絞った。



実はBondage Fruitのライブを見るのは初めて。録音物も、まぼろしの世界がサンプラー的に出した『MABO ROSHI NO SEKAI SAMPLES』に1曲含まれているのを聴いているぐらい。それも、データとして知っているだけで、Bondage Fruitの印象は無い。日本のアングラな音楽の場では著名なこのバンドの音を知らないままというのもどうかという考えはずっとあったので、今回はその考えをどうにか出来るチャンスになった。



そのバンド名からなんとなく変態的な、言ってみれば吉田達也的なものを想像させていたBondage Fruit。嵌る時には面白いけど、そうじゃない時には鬱陶しい音楽。そういうモノだろうと、決め付けていた。

だけど、目の前で繰り広げられるこのバンドの音はそういうモノでは無かった。最初にミニマルでアコースティックな繊細を演奏。それはどうも新曲だったらしいのだけど、バンド名からの勝手な想像はいきなり外れた。その後はトランシー気味なグルーヴのある演奏や、若干バンド名からの想像に近い編込まれたものもありつつ、演奏のメリハリ、そして地下のハコで繰り広げられているとは思えない外に向かう音を思えば、Rovoとか好きな層がこのバンドの演奏を聴いたら、さらに客が流れてくるのは想像できる。



各々の演奏を拾って聴いても面白く、アコギとエレキを使い分ける鬼怒の演奏力とかフレージングとか、ギター小僧にぜひ参考にしてもらいたいぐらい、真っ直ぐなギターの魅力を強く感じさせる。

実は芳垣安洋がいない場での演奏を初めて聴く事になった高良久美子さん。パーカッションの類も扱いつつ、やはり特に魅力的なヴィブラフォン。ちょっと濃い音が前面に在る時のVibの音がそれに相対したり、ミニマルなフレーズをVibで奏でられるとReichの最も気持ちのいい音が目の前に出てきた気分になる。クラシックスあたりで、高良さんのソロか高良さんメインの小さな編成でのライブとかあれば面白いと思う。

今回唯一知らない演奏者だったベースの大坪寛彦。チェロぐらいのサイズのベースを座って弾く。見た目に渋くてカッコいいオッサン。音は座った場所と同じくバンドの中心。変わった事はせず、魅力的なアコベの音でフレーズが奏でられ、放っておけばどこまでも外れることの出来るバンドがそんな風にならないのは大坪の音が押さえ込んでいるからで、こういう音があると聴く側も、意識的であろうが無意識であろうが音の拠り所を捕まえることが出来るので、安心して他を探すことが出来る。

割とマトモにドラムなセッティングの岡部洋一。と思っていたらバスの音が妙な感じで、よく見てみるとキックするバスドラは無く、タムをセッティングするような位置にバスの音を出すセッティング。この音を中心にマットな響きの音が印象的で、ある意味臨場感とは全く逆の演出の印象。だけど音は跳ねまくり、パーカッションの叩きも流石を見せ付ける。

Bondage Fruitは鬼怒と勝井祐二の双頭リーダーバンド。勝井も年に何度か演奏を聴く機会はあるけれど、今まで勝井を目当てでライブを見に行ったことは無い。どういう場でも、ヴァイオリンという比べる奏者が少ない楽器の使い手である事もあり、存在感は見せ付けてきてくれていた。だけどこのBondage Fruitでの演奏で、やっと、勝井のポテンシャルみたいなものを確認。いつも、最終的に高揚感を煽るような音が持ち味だと思っていたけれど、もちろんそれはありつつアグレッシヴな側面が多々見える。前に出る音として、鬼怒よりも勝井の音の印象が強く残り、結局このバンドが勝井にとって、最もやりやすい場である事を知ることになった。



鬼怒のMCの危険な感じは以前から感じていたけれど、今夜はそれを思いっきり感じる事になった。ナスノミツル並の危険。勝井という絶妙な突っ込みの相方とのコンビネーションは絶妙。演奏しに来たのか笑かしに来たのか、と、聞いてみたいぐらいのMCっぷり。まあ、そのMCが長くてライブ終了が23:00を回ったけれど問題無。