林栄一トリオ

本当は今日は、Pantaの響を見に行く予定だった。だけど昨夜、カップリングが2つもあると知り、悩んでなんとなくピットインのスケジュールをチェックすると林栄一のライブを発見。これは、今回はこっちにしろという事だと思い込み、ピットインを選んだ。



トリオ編成という事で、ベースに早川徹、ドラムに福島紀明というリズム隊。フリー系のジャズで、トリオ編成というのは潔い。ちなみにリズム隊の2人は全く知らない名前。



ある時期まで、林栄一はオレにとって最も好きなアルト・サックス奏者だった。オーマガトキからリリースされた1st『MAZURU』を耳にして、それからCDというメディアでリリースされる林の音追っていた。少し癖のある楽曲と、ハッキリとした輪郭の林のアルト。オリジナル以外での、例えば『Monks Mood』や『MONA LISA』のような作品でも、ジャズという範囲での魅力的な音を林のアルトは表現していた。そのライブに接する機会は遅く、多分初めて見たのは吉田達也を加えた編成の頃。もちろんピットイン。そこで何年も聴き続けた音の確認をして、だけどその後はタイミングが合わず、林名義のライブには行っていなかった。それでも時々、酒井さんとの演奏や昨年の正月の森山・板橋クインテットへの客演等があり、そのライブを見てこれからは無理をしてでも林のライブに行こうかと思っていた矢先、de-ga-showを見て全くオレの耳に合わない音を聴いてしまって、結局疎遠になった。

そういう事があったけれど、林の音そのものに魅力を感じていないわけではなかったので、今夜の機会はそれ埋める様な事になる可能性を思っていた。



最近の林のCDのリリース状況はあまり知らないので、演奏される楽曲が知っているものにならない可能性のほうが高いと思っていたし、別にそれで構わないという気分。1st2nd共に、5曲ずつ程度の演奏だったと思うのだけど、この中には聴き覚えのある曲が多数あり、ここ数年はあまり耳にしていなかった林の作品だけど、やはりそれは自分に残っている事に気づく。特に1stの終盤の曲で、『MAZURU』の「Smoky God」のテーマが一瞬現れた時はドキッとした。こういう仕掛けには、簡単に引っかかる。

演奏は、フリーキーな部分を持った林のアルトと、ラテン気味の福島のドラムにグルーヴのある早川のベースという組合せになった。正直言えば、全体にもう少しフリーキーに振れる方向を期待していたのだけど、そういう風にはならない。

2nd、現ラクダ、元Tipographicaの鍵盤奏者水上聡が数曲で加わる。コンパクトなセッティングのキーボードを扱う水上。鍵盤数の少なさからか、音を撒き散らす印象はあっても、ラインのあるアドリブとしての面白みに欠ける。加えて音のバランスが悪く、必要以上に音が響いて林の音を消してしまう事もあった。水上が加わったのが急遽だったという事がよくわかったのは、ソロの受け渡しがうまく行かない場面があり、まるでジャム・セッションのようにだらしない場面。さらに水上が抜けた後にはノイズ気味のアプローチをしようとした早川の機材にアクシデント。ここでオレはしらけてしまった。実はその演奏自体は良いものになったのだけど、こういうものを目の当たりにすると気持ちがのめりこめない。結局少々突き放した気持ちのまま、ライブの終わりを待つ事になった。



全体的な演奏としては、悪くは無かったかもしれない。オレは妙な期待があったので、それが満たされなかったせいで突き放し気味になった感は否めない。でも、林のアルトはもっと危険で魅惑的に響く瞬間を持っている事を知っている。また今度どこかで、それを確認できる機会を待ちたい。