ナスノミツル
昨年5月にリリースされたナスノミツルの1stアルバム『Prequel October 1998 - March 1999 + 1』は、特にリリースのあても無く(?)録り溜めていた作品集。ジャケットが秀逸。
「The Next Minute」はアブストラクトな打ち込みのリズム、大友良英と益子樹の悲痛な音、まるでRy Cooderのスライド・ギターの様な鬼怒無月のギター、呟くようなナスノの歌声。浮遊感漂う耽美なトラック。
続く「Before The Rain」はSamm BennettのWAVE DRUMとナスノのエレクトリックな音が醸し出すアフリカンの響きを携えたユニークな音の上で、クールな益子ふみえの歌声が冴える。
加工されたナスノの声で幕を開ける「Motai」。その声が終始する中、ベースがゆっくりと表情をつけながら進み、その上をSamm Bennettの音が色付け。
芳垣安洋のパーカッションが印象的な「Karamel」、意味不明な磯田収の歌と相成って、前半は無国籍音楽の風情だけど、中盤を過ぎてからはドラムン・ベースに影響されたような音色のリズムが被さり意図不明音楽に・・・。
妙にカッコいいドラムにまたしてもナスノの加工された歌声の「The Mists」。この曲でも、悠々としたベースはドラムン・ベース風にも聴こえる。
とても声には聴こえないぐらい加工されたナスノの声の上を、田中悠美子の義太夫三味線と歌声が合わさった「SB」。逆位相的な音の向き合い。危険。
大友によるターンテーブル以外はナスノ自身の音で作られた「Beyond The Cross」。コラージュな音が印象的。
終曲「Mobile Syndrome ver.0302」がアルバムタイトルの+ 1。ダウトの社長担当のノイズと南方美智子のキーボードという編成。この曲のベースが、ここまでの中で最もヘヴィーな感触。
個別に録られたわりに音に統一感がある。そして頭からの3曲を筆頭に、全体としてみてもブリストル・サウンドに通ずる感触。だからTrickyとかMassive AttackとかPortisheadとか、或いはPop Groupを好む様な層の方がこの音楽を受け付けやすいと思う。
やっと1stがリリースされたと思った半年後、2nd『離場有浮』(リヴァーブと読むらしい。昔のヤンキーのセンスだな)がリリース。こっちはリリース予定があっての録音だと思われ、灰野敬二と石橋英子が参加したセッション。
アルバムの1曲目はライブなんかで聴く事の出来るロックなアプローチのインプロ(だと思う)。疾走感と暴走感と少し変態。
だけどそのトラックの最終局面から最後のトラックまでは音数の少ない、言わばアンビエントに近い展開が続く。但し、トラック・メイキングによるアンビエントとは異なり、即興演奏的なアプローチを下地にしているはずで、クールダウンの効果は全く無い。寧ろ、刺々しい音響派という趣。あえて言えばPete Namlookに近い。
ちなみにライナーは大友良英が書いている。多分、間違いなく、音は聴かずに書いている。だけど笑えるライナーなので文句は無い。
ライブでは強烈にグルーヴする音と、天然としか思えないMCっぷりで目の離せないナスノだけど、自分の名前で作る作品がこういうモノに仕上がってくるとは全く予想できなかった。そのライブでの姿とこの2作と合わせて、なんとなくおぼろげにナスノというミュージシャンのスタンスが見えてくる。様な気がするけど、気のせいかも。
ナスノミツル 『Prequel October 1998 - March 1999 + 1』
ナスノミツル 『離場有浮』