Shing02

日本語のラップらしきものが表に出てきたのは、佐野元春の『Visitors』が最初だったと思う。その後歌謡曲吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」や田原俊彦の「It's BAD」があり、いとうせいこうが『建設的』を出し、それによって高木完藤原ヒロシのTinnie Punx、そしてそこからアングラではあるけれどMajor Forceというレーベルが立ち上がり、そこにECDスチャダラパーが属する事になる。それからスチャダラがメジャーに活動が移り、m.c.A.Tの「Bomb A Head!」が売れ、さらにEAST END×YURIの「DA.YO.NE」がヒット。この辺で、ヒップホップに興味の無い層にも、日本語のラップというものが浸透したと思う。そしてこの頃、アメリカに拠点を移していたDJ Hondaが本格的なアルバムをリリースし、さらにDJ Krushトリップホップというカテゴライズにより国境を越えた存在として認識され、一気にその名が知れ渡っていく。こうした動きから、Zeebraを筆頭にした日本のラッパーがメジャーでの展開が成功し、日本のヒップホップというカテゴリーが成立する事になり、現在につながる。



オレが日本語のラップ / ヒップホップのCDを初めて手にしたのはECDの『Walk This Way』だった。この頃日本のヒップホップはまだキワモノという感覚があったけれど、ミュージック・マガジンでヒップホップの作品をレビューしていたECDという人に興味を持った。結局『Walk This Way』はその後オレが日本のヒップホップに興味を持ち続ける動機になる。そのECDの音を追うことによって必然的にまだアングラな存在だった当時の日本のヒップホップが頭に入ってくる。TwigyMuroLamp Eye、キミドリ、Buddha Brand、King Giddra等々、枚挙に遑が無い。急速なシーンの盛り上がりと共に、性急にオルタナディブな存在が求められた。それはカウンター・カルチャーな存在であったヒップポップがメジャー化されたことに対する誠実な反応だったと思う。そしてTha Blue Herbが認識され、さらにShing02という存在がピックアップされる。TBHに虜になりながらも、Shing02にも興味を持ち、『緑黄色人種』を手にしたけれどそれを繰り返し聴く事は無かった。



その『緑黄色人種』をこの間のライブの前に久々に耳にして、オレがこの作品の印象が残っていなかった事の理由がすぐにわかった。Shing02のラップというか、声に魅力を感じなかった。だからこれを繰り返し聴く理由がなく、改めて聴いてみてもその印象は変わらない。『歪曲 』は、それに比べれば録音の違いなのか、声に多少生々しさがあり、何度か聴き返す事は難しくなかった。

このアルバムは「美獣」という曲が中核になっている。間に1曲を挟み2曲に分割されたこの曲は、8分54秒の上編、12分43秒の下編という長さ。この曲はラップではなく、ポエトリー・リーディング。この曲に魅力を感じるかどうかはそれぞれだと思うけれど、オレはこの曲を聴いて、TBHの「路上」が頭に浮かんだ。

ライブでShing02の姿を見ていて、そのカッコはヒップホップ的なモノではなく、ステージ上を見渡してみてもDJ以外はヒップホップの要素は無い。やりたい事、やろうとしている事はオルタナなのだろうけれど、「美獣」を薩摩琵琶に任せ、自身はラップから外れる事は無かった。そのラップやライムには先人達の要素が多く見受けられ、それはECDであったりTwigyであったりShakkazombieであったりしたのだけど、実は結構影響を受けている事がわかる。随所にみせる微妙なジャパネスク感はその生い立ちによるものだろうけれど、個性としては面白くても、そこにシンパシーを感じるのは誰なのか、オレには不勉強でわからない。

『歪曲』の収録曲、「接近」は目の前で歌われると気恥ずかしい内容で、10代ぐらいじゃなければ向かい合って聴く事は難しい。だけど、モロにセックスなフックの「櫛ト簪」の比喩は面白く、言葉使いの巧みさは否定し難い。そして「美獣」は、個人的には面白いトラックだと思う。少々セリフの語りが大げさだけど、聴き入ってしまうモノは持っている。ただ、物語りのオチが抽象的なところが不満ではある。



ファンの人が見たら激怒しそうな批判含みな内容になったけれど、ついこの間まで眼中に無かったのに1枚のCDと1時間ほどのライブで色々考える時間を作ってくれたというのは、楽しませてくれたという事。これで次のアルバムが無視出来なくなった。









Shing02 『歪曲』