Tony Conrad / 灰野敬二

ライブの予定をチェックして、「これは見る」と決めるものと、「興味はあるけど保留」なものがある。「興味はあるけど保留」という状態のものは決め手にかけるわけで、結構あっさりスルー出来るのだけど、そういうものでもスルーしにくいものは、何か理由をつけて足を遠ざける。今夜のスーパーデラックスのTony Conradと灰野敬二のセッションは、仕事でも何でもいいから行かない理由が欲しかったけれど、結局それが出てこなくて、開演前にSDLXに到着。

このライブも集客が読めなかったけれど、この間のJim O'Rourkeと山本精一のセッションと変わらないぐらいの入り・・・。ここにいる人達皆Tony Conradか灰野敬二を聴いてるのか? オレはTony Conradの単独名義のCDは持ってなくて、『From the Kitchen Archives: New Music, New York 1979』というコンピに収録されている1曲と、John CaleとかLa Monte Youngとの『Inside the Dream Syndicate, Vol.I: Day of Niagara』しか知らない。ドローンの人だぞ・・・。でもオレもよく知らない・・・。とか思いながらウダウダしていると、Conradと灰野が登場。演奏開始。

ステージ中央には鍵盤が見える状態でアップライト・ピアノがあり、その上にミシンらしきものが置いてある。

Conradは、そのミシンらしきものに草笛の様な状態で音を向ける。意味がわからん。灰野敬二は卓モノを使っているっぽいのだけど、あまり視界が得られる状態ではなく、何をやっているのかよくわからない。灰野敬二の操る音が3音程で簡単なフレーズを繰り返し、ドローンというよりミニマル的、Steve Reichの「Four Organs」を連想させる。Tony Conradはおもちゃの様な擦弦する楽器を使った後、早々にヴァイオリンに持ち替えて気ままにアヴァンな演奏という趣。

2ndまでの休憩時間にいくらか客が減り、少し楽になった。その2ndは架空の民族音楽のような立ち上がり。灰野敬二は床に置いたシンバルなどの打楽器のパーツへのアプローチから、ハーディ・ガーディを使っているのが確認できる。そのハーディ・ガーディがドローンを放ち、Tony Conradは相変わらず喜々とヴァイオリン。灰野敬二はヴォーカルでのパフォーマンスを経て、マンドリンを使う。下敷きで扇ぐ時の様な妙なペロペロの音が出てきた時は何で音を出しているのか気づかなかったけれど、それがマンドリンだとわかった時はなんとなく不思議な気分。だけどそのマンドリンを使った演奏は徐々にBaileyを思わせる音に変化。ダメだ。この音が好き過ぎる・・・。その間Conradはミシンをガタガタいわせたりしていたけれど、なんとなく能天気。

音楽的に、1stはConradが用意したものを灰野が再現するという感じで、そこに灰野の持ち味を加味したのが2nd。演奏はアヴァンな感じなのに、どこかとぼけた雰囲気というのがConradの演奏者としての持ち味だと思う。今年は結構灰野の演奏を見ているけれど、この人はやはり凄い。パフォーマーとしてのここまでの蓄積に、魅了されない理由が無い。




やはり見ておいてよかったというライブではあったのだけど、個人的な注文が2つほど。1つはドローンな展開だけの演奏が聴いてみたかった事。それと、2ndが1時間20分ぐらいやっていて、少し長すぎだった。立ち見だったからというのもあるのかもしれないけれど、終盤のアグレッシヴな展開がお約束にも思えて、突き放した見かたになってしまった。終わり方もしどろもどろに思えた。あれなら演奏を切ってアンコールとして演奏してくれたほうが、引き締まった印象になったと思う。