島唄情け唄

自分がどこの出身であるかという事は、当たり前だけど一生変わらない。オレの場合それは沖縄という所になるのだけど、ハッキリ言って、愛憎入り混じった感情があり、自分の帰るところだとは思ってない。最後に帰ったのは2年前だけど、その前は5年ぐらい帰っていなかった。だから実家に帰っても落ち着く感じはなくて、渋谷まで帰ってきて、あの異常な人波を見てホッとする。でも、やはり植えつけられたものはそのままで、時々ほんの少しだけ沖縄の音楽を聴く。このブログにもそれは書いていて、それが知名定男と大城美佐子。だから一度だけ、その2人の生の歌声を聴いてみたいという気持ちはずっと持っていた。

Gee Wee、たまたまネットで今夜のコンサートを見つける。知名定男と大城美佐子によるコンサート。しかも場所は渋谷のパルコ劇場。なんだこれ? まるでオレの心を見透かしたかのようなセッティング。今日か明日か悩んで、その時点でいい座席を選べた今夜を選んだ。

沖縄に居た頃にどうしようもない地元のバンドのライブを付き合いで何回か見ているけれど、そういうサークルみたいなものを消してしまえば、自分で金を払って沖縄の歌手のコンサートを見るのが今夜が初だという事に気づく。まあ、それはどうでもいいか。

1stと2ndの2部構成だと事前に知っていたので、勝手にそれぞれが別々にセットを勤めるのだと思っていた。ステージに幕。三線の音が響き幕があがる。ステージ中央に三線を携えた知名さんと美佐子ネーネーが並んで座っている。そうだったかと、勝手に1人で驚く。そして初めて、この2人の生の歌声を聴く事になった。

知名さんは定位のハッキリした歌声。どこに向かって歌を歌うか、それがわかっているかのような歌声。ゆったりと大きく構えている。重厚だけど、重く無い。

美佐子ネーネーは正しく絹糸声。絹の糸のような歌声。誰がそう形容したのか知らないけれど、これ以外に言葉は見つけられない。オレは今後、この声に匹敵する歌声を聴く事はあるのだろうか?




美佐子ネーネーの師匠は嘉手苅林昌。沖縄の音楽を知らない人にはどうでもいいことだろうけど、嘉手苅林昌といえば、沖縄の音楽においては完全なカリスマ。そして今日まで全然知らなかったけれど、知名さんの師匠は登川誠仁らしい。その2人をネタにした知名さんのMCが面白く、かなり笑った。知名さんは結構饒舌で、歌の事やそれにまつわる色々を話す。そういうものがライブの印象を大きく左右はしないけれど、多少は関係する。

演奏は2人だけではなく、琉琴の知名定照(知名定男の弟)と太鼓の堀内加奈子(北海道出身で美佐子ネーネーに師事しているらしい)が加わる。琉琴の繊細な音は微かに音に色を添え、堀内さんは大きくない太鼓の音で緩やかにサポートし、時々歌声も響かせる。隙間の多いこれらの音の方向は、オレが普段ライブで聴くものとは全く異なる。今夜のその音は時間の進み方をわからなくさせ、「そういえばオレの知ってる沖縄って、こういう時間の進み方だったな」と思い出した。