楕円の誘惑

とりあえずいつものようにどうでもいいイントロから。

浅草は完全にオレのテリトリー外。だから今まで、アサヒ・アートスクエアでのライブには行かなかった。でも今回、大友良英が今のOtomo Yoshihide's New Jazz Orchestraに対する自信をのぞかせるような事をブログに度々書いているのを目にして、まあ、煽りに負けて見に行く事にした。行くと決めて、よく考えてみるとONJOのライブを座って見た事が少ない事に気づく。だから今回は開場時間の18:00に着く事は無理でも、せめてギリギリにならないタイミングで行けばなんとかなるかもしれないという気持ちで浅草に向かう。そして開演20分前ぐらいに到着。当日券待ちの人達を尻目に中に入る。まだまだ空席のある状態だったので、とりあえず座って聴く事が出来る事にホッとする。でも今回はコロシアム・スタイル。円形劇場状態。しかも、真ん中は椅子が無い状態なのに観客が座っている・・・。何か変な感じだと思いながら適当な席に着いた。

1stはONJOじゃなく、Brandlmayr / Dorner / Sachiko M / Otomo Quartetで、大友のお気に入りの面子らしい。明からに音響派な面子なので若干の不安と、それでもやはりいくらかの期待を持つ。

Axel Dornerは昨年のONJOに加わった演奏や、それ以前からErstwhileからリリースされているCDで耳にしていた。ヨーロッパ・フリーらしさと、音響派ならではの繊細さを併せ持つラッパ吹き。ドラムのMartin Brandlmayは土曜のFtarri Festivalで音を聴いたけれど、元々名前に聞き覚えが無かった。だけどよくよく調べてみると、ErstwhileでCDを出しているし、HathutのTrapistも実は聴いている。名前を覚えていないだけで、録音物は耳にしていた。それにサイン波の幸子さんに、ターンテーブル&ギターな大友。弱音なセッションが繰り広げられると思っていたけれど、そうではなかった。もちろん間の多い、弱音な演奏を知っているものの演奏なのだけど、オレには弱音的なものとは違った印象が残る。現時点の音によるフリー・インプロヴィゼーションだったと思う。ここでの音のやり取りの緊張感、それに引き込まれる。個人的には全く抵抗できない音。ただひたすら音を追う。ノイズであったり、一瞬の咆哮であったり、そういうものが目の前で繰り広げられる。これはオレが聴きたかった音。それ以外には言う事が無い。

2ndはBrandlmayrとDornerの加わったONJO。1stに完全に持ってかれた状態で、ONJOが聴きたい気分は正直言って少し萎えていた。今までのONJOのライブを楽しみはしても、大友良英のライブという意味ではONJOはオレにとっては2番手の存在。だけど今夜のONJOは、オレの斜めな考えを覆すものだった。

ONJOの音を聴きながら、オレは「このバンドは現代のGil Evans Orchestraだ」と思った。何故そう思ったか?、それは何かで目にしたGeorge Adamsの言葉を思い出したからで、George AdamsはGil Evans Orchestraに呼ばれれば手弁当でもそこに行くという事を話し、なぜならそこが「音の花園」だからだというような事を言っていた。今夜のONJOを表す言葉は、なんかイマイチしまらない感じだけど「音の花園」以外には思い浮かばない。でも「音の花園」だとカッコ悪いので、オレの好きなSound Gardenを訳して「音の庭」という事にする。とにかくそういう音だった。派手な瞬間は少ない。だけど色んな音がいくつも表れては消えてゆく。これを追っているだけで時間は過ぎた。今のONJOは間違いなく今までのONJOよりも面白い。それは結果的に、派手な音を持ったサックス・プレイヤーが居なくなった事が大きく関与していると思う。既にJazzという言葉が当てはまらない状況。




一人ひとりの音とか、書きたい事は山ほどあるけど、ホントに山になるのでこの辺でやめとく。だけど一つだけ。

Axel Dornerの音がONJOにフィットしているのを聴いて、Dornerが来日時やONJOのヨーロッパ・ツアー時にしか加われないのなら、日本人のラッパ吹きが参加すると面白いと思った。そしてそれは、田村夏樹であって欲しい。田村のインプロにおけるセンスは、Dornerに引けをとらない。そういうプレイヤーが日本にいる以上、それが加わったら面白いと夢想する。



一つだけといったけどもう一つ。コロシアム形式の客席やスピーカーの配置などを含め、今夜の演奏される場の用意にも賛辞を。色んな要素があっての結果だったと思う。とにかく今夜は、「行動範囲外だからパス」なんて消極的な態度をとらなくてよかった。



Brandlmayr / Dorner / Sachiko M / Otomo QuartetとONJO。どちらも耳から離れない演奏だった。カルテットは明日は札幌、明後日は京都でライブがあるようだけど、約束や仕事を蹴っ飛ばしてでも見に行くべきだと思う。