Miles Davis

年末に手に入れてから年明けまでに通しで何回か聴いた『The Complete On the Corner Sessions』。7枚組みでトータル6時間30分以上あるこのボリュームを通して聴くには、集中しない事が重要。というか集中して聴くのは無理。なのでとにかく、エレクトリック・マイルスの音に浸るという気持ちで臨む。で、今日。久々に通して聴いた。久々に通して聴く気持ちになったのは、iPodの電池のアイコンがそろそろ充電が必要な赤い色に変わったので、なるべく使い切ってから充電したいというエコロジーな発想で、なるべく再生時間が長いものを聴こうという考え。

タイトルがタイトルなだけに『On the Corner』とその周辺のセッションが集約されたものに思えそうだけど、実際は72〜75年までの16回のセッションからの演奏が含まれている。『On the Corner』は当然全て入っているけれど、元々エレクトリック・マイルスの未発表セッション集の色合いの濃い『Get Up with It』も殆ど入っているし、『Big Fun』に収録済みの「Ife」も聴けてしまう。という事で、かなり乱雑な箱物と言わざるを得ない。だけど、正式には未発表だった録音もそれなりにあって、ブートレガーでは無いオレにとってはそういうモノが聴けるのは嬉しいし、『On the Corner』収録曲のTeo Maceroによって編集される前のトラック等もある。だから結局、Milesファンはこれをシカト出来ない。

書きたい事は色々あるけれど、あえて『On the Corner』に絞る。渾然一体といってもいいこのアルバムを、今までは全体的に聴いていた。どこかに主眼を置かず、ジャズではなくてファンクとして聴いていた。あえてジャズではないと思うように聴いていたのではなくて、普通に聴いていればこれをジャズと捕らえるほうが難しい。

漠然と『On the Corner』を聴いていた時の事を思い出して、そこに残っている印象と今の印象を並べてみると結局同じだった。このアルバムの印象はやはりベース。アルバム1曲目の「On the Corner 〜 New York Girl 〜 Thinkin' of One Thing and Doin' Another 〜 Vote for Miles」では、反復されるリズムの始まりであり終わりのように聴こえるベース。2音でリズムを締めているかのようで、3音使ってアクセントをつけていたりする。このベースの上でいくらJohn McLaughlinがギターを弾こうが、2つのドラムとパーカッションが賑々しく音を振りまこうが、残った印象はベースの「ダダッ」という音。2曲目「Black Satin」、3曲目「One and One」、4曲目「Helen Butte 〜 Mr. Freedom X」は同じテーマのバリエーション。これらもTeoのハサミが入っている事を考えれば、リミックス・バージョンが並んでいるという考え方でもいい。そういう曲の並べ方を72年の時点でしている事実。そしてその2曲目〜4曲目で共通のテーマを奏でるのがMichael Hendersonのベース。だからここでも、結局ベースが最も印象的に残る。

『On the Corner』を初めて聴いたのは多分20歳ぐらいの頃。この頃はまだベースという楽器に魅力を感じていないし、別に無くてもいいという考えもあった。だけど今現在は、ベースという楽器は良くも悪くも音楽の印象を大きく左右するという事に気がついている。それに気づきだしたのはここ数年かなりライブに足を向けたからだと思っていたけれど、実際には『On the Corner』がそれを体に埋め込んでいたのかもしれない。









Miles Davis 『The Complete On the Corner Sessions』




多種多様に音楽を聴く輩が増えたといわれる昨今だから、『On the Corner』を聴いていない自称音楽ファンというのはいないはず。それでも、なんとなく縁遠くなっているという人はamazonの輸入盤の価格を目にして欲しい。 今日現在¥1,304。カラオケの為の新譜が¥3,000もするのに、これだけの内容のアルバムがその半値以下。

『The Complete On the Corner Sessions』も輸入盤が¥8,980。¥9,000を切っている。オレは結局日本盤を買った。だけどどうせなら輸入盤を買って、特集記事のあるレココレ1月号と、MM1月号「じゃずじゃ」のマーク・ラパポート氏のわずか2ページのコラムを読んだ方がいい。レココレはセッション毎に資料化しているし、菊池某様のインタビューや、『On the Corner』の波及効果までまとめている。MMのラパポート氏はこの箱の聴き所である未発表をわかりやすくコメントしていて、長丁場のこの箱を聴く為の水先案内になっている。