内橋和久

暖かい陽気の昼間に、何の因果か新宿に向かう。勿論行き先はピットイン。しかし、寒い時期の晴れた空というのは、空気が乾燥しているせいもあって日差しが痛かったりする。というか、こういう気候にオレは全然似合わない。爽やかイメージを狙った人生を生きるべきだったんじゃないか?とか考えていたらピットインに到着。この明るい日差しの中、地下の暗がり入る。ホッとする。どこに座ろうかと思ってとりあえずステージを見てみる。違和感。すぐに気がつく。ステージに楽器がセッティングされていない。「?」な状態でよく見ると、ステージの前の客席と同じレベルに内橋和久の機材が並んだテーブル。客席とフラットな状態。だけどステージはピアノも横にどかされていたので、「まさかダンサーとか登場するのか?」等と考える。くだらない事ばかり考えているうちにライブが始まった。

結論から書くと、ダンサーは登場しなかったし、内橋以外に誰かが出てきたりはしなかった。ステージを空っぽにして、赤いスポットライトがピットインのロゴを照らしているという演出(だと思う)。なかなかいい感じだったと思う。

そろそろ本題。演奏は1stが長い演奏と短めの演奏を1曲ずつ、2ndは程ほどの長さの演奏を3曲か4曲演奏。当然全て即興。一番引き込まれたのは1stの長めの演奏。エフェクト使いとして、最も優れた演奏家の1人である内橋の本領発揮。いつ見てもこの人のエフェクト類の扱い、その手さばきにやられる。楽器を演出する道具ともいえるそれらが楽器と化している。リズミカルに音が構築されているときは、エレクトロニカ系のライブに来た様な気分になる。それにサウンド・スケープ的な音を併せ、音が方々に散るような感触を作り出す。10月に聴いたときよりも音が入り込んできた。1stでは、エフェクトやサンプリングの為の入力装置のような印象が強かったギターを、2ndではギタリストらしい扱いに変わる。だけどここで弾かれる音は、Altered Statesの時の様なアグレッシヴなものとは異なって、ロック的なニュアンスは無い。フリーインプロ的なアプローチの音も多く、ギタリストとしての懐の深さが出ていた演奏だった。

内橋の持つ音の最大の特色は透明感だと思う。ロック的なダイナミズムが主導のASや、他者とのセッション時のアヴァンな感触等、色んなものを持っている人だけど、いつでも必ず音が透き通るような印象がある。それが強く出るのがソロでの演奏で、この調子で半年に1回ぐらいこういう機会が欲しい。




以下、帰り道に頭にあった事。

昨日吉祥寺に向かう前、職場を出る前に職場で唯一音楽の話をする知人に出会う。その知人が「この間のスーパーデラックスのライブはどうだった?」と聞いてきたけれど、どのライブの時に「これからSDLXに行く」という話をしたのか思い出せず、「最近SDLXよく行っているから・・・」と言うと、「時間のある人はいいな」と軽く嫌味を言われる。で、少し前その知人に「ドラびでおってのがカッコいい」と言われた時に、そのドラびでおを知らなかったオレはネットで調べて、それが一楽儀光である事を知り、「そういえばドラびでおの一楽って、オレ、昔ライブで見たことありますよ。あの頃から普通じゃない感じだったので、ドラびでおみたいな方向に行ったのもよくわかる」等と立ち話。そしてふと、最近ネットで大竹伸朗の『全景』のカタログが話題になっているのを思い出して、「大竹っていうお芸術家知ってます?」と話を飛ばした。すると「知ってる。『全景』みたし。カタログも来たし。」という答え。オレが話を飛ばしたのはその『全景』にダブ平のCDかなんかが入っている事を思い出したからで、すると向こうが先に「ダブ平のCDも入ってた。だけどあれは本物を見たほうが面白いんだよ。」と、今頃になってオレが悔しがるような事を言い出し、あの頃大竹の事にあまり関心が無かった自分自身を後悔。と、この辺で時間切れでオレは吉祥寺に向かったのだけど、ダブ平が面白いといったその知人に、内橋和久 と ダブ平&ニューシャネルの『内ダブ』を聴かせて内橋に興味を持たせようとか考えながら帰路についた。