Terje Isungset / 鈴木理恵子 / 中村仁美 / 巻上公一

世界中のスギの木に火をつける妄想が浮かぶこの頃。だから本当はあまり外に出たくない。でも、見たいものは見たい。



約1年前に見たTerje Isungsetのライブは楽しかった。その記憶がまだ鮮明な中、わずか1年のインターバルで来日。今回は氷の楽器でのライブは無かったようだけど、もしそれが札幌あたりでスケジュールされていたら、それを見に向かっていたかも知れない危険性があったのでよしとする。

ライブは2daysだけど、今回は初日の昨夜だけを見る事にした。最近ライブを見に行く回数が多いので自重。という事。そういう状態じゃなかったら2daysとも行っていた。初日を選んだのは、2日目の一噌幸弘とのセッションを昨年見たので、今年は違う趣向の方がいいだろうという判断。その初日のセッションの相手は巻上公一篳篥という和楽器使いの中村仁美とヴァイオリンの鈴木理恵子。巻上以外は名前も知らなかった人達。しかもヴァイオリンの鈴木さんは調べてみるとクラシックな人。オレはクラシックが苦手だけど、侮ってはいけないという事を高橋さんの演奏で気付いた。だから逆に楽しみでもあった。

客席の照明も落ち、ライブが始まると思ってステージを見て「あ? マジかよ?」。日比谷カタンがいる。ピットインのスケジュールにはその名前は無かった。だけど前座として登場。約30分ほどオレは不機嫌になる。この人のミュージシャンとしての存在意義を問う気は無い。彼の歌が好きな人がいても別にそれにケチをつける気も無い。だけどなんでこのセッションの前座にこの人? オレはこのカタンという人の歌を聴いて、何も面白いと思わない。面白おかしさを狙った歌詞と、何かのパロディの様な歌い方。こういう手法がオレには古臭いモノにしか見えない。だからつまらない。でも、この人のギターは良いと思う。演奏を始めた冒頭は即興だったようなのだけど、その音に耳が引きつけられた。歌いながらのギターも、力強くて不穏な音という相反する感じがある。もしオレは、この人が歌を歌わずにギターだけで演奏するミュージシャンであれば、単独でのライブを見てみたいと思う。だからより、この人の歌が気に入らないし、大して面白くないMCに大笑いしている人たちは「サクラか?」と思った。

短い休憩を挟んで1stセット。Isungsetのソロ演奏。昨年見たのと同じ様に、口琴を使った演奏。「ビヨーン、ビヨーン」という事。それと、いくらかの小物を使いながらの演奏。プリミティブ。響きと、ビートではないリズムを感じる演奏。音は優しいけれど、聴き入ってしまう。続けて一応タムやスネアも交えた打楽器類を使っての演奏。ここではビートらしき音も入る。だけどスティックが通常のものとは違い、細い小枝を束ねたようなもので、それで叩き出される音ははじけ具合が少ない。でもその音はこういう演奏に似合っている。人のよさそうなIsungsetらしい音。

短い休憩を挟んでの2nd。巻上がMCして、まずは中村さんとIsungsetの即興演奏。中村さんは篳篥という楽器がメインの人のようだけど、今回は笙とノルウェーの楽器も持ってきているとの事。後付でわかったのだけど、このデュオで使っていたのは篳篥ではなく、多分ノルウェーの楽器(違うかもしれないけれど、笙でも篳篥でもなかったはず)。この楽器はオレのボキャブラリーではバスクラに近い音を出す。尺八的でもあった。でも、とにかくカッコいい音。予想外。それにIsungsetはうまく絡む。結構シリアス。ちょっとやられた感が残る。

続けて鈴木さんとIsungsetのデュオの予定だったようで、それを巻上がMCしにステージに現れ、楽屋にいる鈴木さんを呼び出そうとする。だけどIsungsetが巻上とのデュオを先に望み、若干苦笑いな巻上は、それでも順番を変更。そしてこの2人で口琴のデュオ。これが楽しい。とにかく楽しい。音が面白い。お互いにユーモアを交え、お互いの音を尊重しつつ演奏を展開。大して面白くない誰かのMCや歌と違って、本当に笑える。文句なしのチェンジ・オブ・ペース。そして鈴木さんとIsungsetのデュオ。今回の面子で最もわかりやすい楽器の使い手が鈴木さん。だけど少し肩に力が入った感じ。それは、選ぶ音が現代音楽的で、即興でプリミティブなアプローチを持ったドラムとの演奏という事が、必要以上に音を選んでしまったのだと思う。悪い演奏だったわけではない。だけど、ある意味せっかくの悪魔の楽器の持つ如何にもな音も使ったほうが、存在感は強く提示できたと思う。少しもったいないと思った。

そして全員揃い踏みで即興が始まる。ここで中村さんは笙を使う。この楽器もやはり特別な音。その音をサポートするのはIsungsetで、それを利用するのが巻上の歌とテルミン。若干PA的に音が苦しかった感触の鈴木さんのヴァイオリンは、それでも時々鋭い音を差し込む。なんかまさに即興演奏。しかも、ありがちな楽器での演奏ではないので、それだけでも変わったものを聴いている気分になる。そしてここで圧巻だったのは篳篥に持ち替えた鈴木さん。この楽器の音は鋭く、なんとなく阿部薫を思わせたりする。スタッカートの無い音だけどそれでも鋭く、存在感が凄い。この音にはかなり耳が反応した。続けて今度は巻上とIsungsetがヴォーカルでの面白セッションで幕を開ける。勝手語を使っての歌というかなんていうか・・・。口琴の真似まで出てくる。面白すぎ。中村さんと鈴木さんは絡むタイミングを見つけきれない。それに気づいた巻上が入ってくるように促す。Isungsetは2人が入りやすいように叩きに移行。すると中村さんが歌いだす。なんか色々。この中村仁美という人は面白い存在。普段はこういう場に出てこないかもしれないけれど、出来ればまたこの人の演奏が見てみたい。

アンコールもあったけれど、22:00過ぎぐらいでライブは終わった。休憩時間が短かった事もあっての終演時間だと思うけれど、色んな音を聴けたので濃い時間だった。