Brad Shepik Trio

Brad Shepik Trioの現在のところの最新作『Places You Go』。これは昨年の夏ごろ、とある目的でHMVのネットショップをウロウロして「新作が出てたのか」と、なんとなく購入したもの。だけどその時はイマイチに思い、繰り返し聴く事も無く放っておいたパターン。寒いこの時期に再度チャレンジ。そういえばHMVリアル店舗には行く事が無くなった。HMVが渋谷に店舗を構えてからずっとオレのメインのCD購入の場所はHMVだったと思うのだけど、いつの頃からか足を運ばなくなった。もちろんネットで安い値段で買えるという環境が整った事が大きく影響しているのだけど、それでもタワレコには行くし、レコファンは週一でのぞいている。店舗の内装を変えるということはよくあるけれど、1階が白っぽくなったあたりでイヤな気分になり、足を踏み入れないようになったのだと思う。

まあそれはそれとして。Brad Shepikを聴くようになったのはDave Douglasの『Songs for Wandering Souls』に収められている「Ferrous」という曲がキッカケだった。アラビックと言っていいのか、印象的なテーマを持つこの曲の疾走感を作っているのがShepikのギター。さらにDouglasの後を受けてのソロも、この曲のテーマを活かしたフレーズで決めて見せ、そのアルバムを通しで聴く事は無くなったけれど、この曲だけは時折思いだしたように聴きたくなる。とにかくこの演奏で頭に残ったShepikのアルバムを初めて手にしたのは『Short Trip』で、これは当時は元気だったKnitting Factoryのレーベルからリリースされたもの。だけどこのアルバムや、その後手にした『Drip』もオレの期待する音とは異なっていて、Shepikのソロ名義の作品に対する興味は失せていた。『Places You Go』も初めて聴いたときはそういう印象。NYのアングラなところに所属しているはずのギタリストの音としてはアヴァンでもアグレッシヴでも、フリーキーでも無い。所謂ジャズ・ギターな音と演奏。わかりやすい刺激が用意されていない。最初からそういう音だと思って接すれば、Jim HallやPat Martinoを聴く時の気持ちで接すれば、印象は異なっていたと思う。そしてとにかく、何気ない気持ちで『Places You Go』を聴く事にした。ミドル〜スローなテンポの楽曲が並ぶ。トリオ編成だけど、ベース・ギターではなくオルガンが組み込まれている。そのオルガンもソロをとる。行き過ぎず、でも印象的に音を並べる。なかなかいい。Shepikのギターは、やはりすぐに耳を引きつけるような音ではない。曲との相関関係を維持しながらのその音はシンプルだけで、強い前衛思考が無い事がある種の強度になっている。特にバラッドな曲においての表現は、ハードボイルドとも甘美なものとも違い、うまく言葉に置き換えられないけれど、何かが秘められた音として受け取る事が出来て、投げ出したままにしなかった理由が見つかったような気分になる。こういうと如何にもなジャズばかりかと思われそうだけど、「Batur」はエスニックな要素を含んでいて、そこには少し沖縄音楽的な音を感じる事も出来るし、その他の曲も、実はコンテンポラリーなジャズの曲という感触が強い。パッと聴いた音の感触だけで音楽全体を判断してしまっていたのだけど、少し自分の視点を中央に戻す事によって、この作品の個性、そしてそれは何度も聴き返すに値するものだという事に気がついた。

改めて『Short Trip』や『Drip』も聴いている。それを聴きながら、それ以前にもリリースされていたShepikの作品を、慌てたりせずに、頃合を見計らって手にしたい気持ちが今はある。









Brad Shepik Trio 『Places You Go』