Marginal Consort

ライブを見ると言う行為は必ずしもその時間を100%楽しめるわけではない。音とか視界とか他の客による不快はおいておいて、演奏そのものを頭から終わりまで全てを楽しむという事は多分無い。演奏される楽曲が好きな曲だけだったとしても、そういう風にはならないと思う。そして即興演奏というものは、殊更そういうもの。即興演奏を聴くという行為は、聴く側のその行為に対する知性との駆け引きがある。どの音に自分が反応するのか、結局はその部分を見つけるように音を拾う事になる。だけど即興演奏が好きでも、それが行われている場所に足を向ける場合と無視をする場合がある。それは結局、即興演奏という行為を担当する演奏者の持っているものを選んでいる。要するに演奏者の持っている技量、フレーズ、或いはその音色が自分の聴きたい音であれば、その演奏者のライブに向かう事になる。

オレが幾らか即興のライブを見ていて思うのは、時間という事の問題。即興演奏というのはジャズのライブに近いものとして扱われ、大体が1セット(1時間)×2+アンコールという形で行われる。これがある種のノルマになっている。だけど即興というのは刹那な行為であるはずで、必ずこれだけの時間演奏するという枠組みがされていると言う事は、その時点で実は一つの枠を決めてしまっているはずで、まあ、即興演奏は必ずしもノン・イディオマティック・インプロヴィゼーションという概念ではないからオレの指摘は当てはまらないとも言えるけれど、個人的には時間という枠を置かない即興演奏を見てみたいと思う。それは結果的に1時間だったとしても、30分だったとしても、或いは10分だったとしても、演奏する側がその時間に自分の演奏する行為をさらけ出す事が出来たのならば、それを聴きたい。

ウダウダと前置きを書いているのは、昨夜のスーパーデラックスで見たMarginal Consortの事を書く為。というとMCが時間設定のない即興演奏を行ったのかと思われそうだけど、それと全く逆。知っている人には今更な話だけど、MCは長時間の即興演奏という枠を持っている。しかも年に一度しか演奏を行わない。その演奏時間休憩無しの3時間という長丁場。トータルで3時間というライブはたまにあるけれど、ぶっ続けで3時間というものは体験した事がない。昨年は12/25といういいタイミングでこのライブは行われていたので、「クリスマスに3時間の即興演奏」という格好のネタであったけれど、本当に3時間も演奏を聴いていられるのかという事に対しての自信が無く、足を向ける事は出来なかった。だけど今年はここまで見てきたライブの本数から場数をこなしたという自負があり、「3時間の即興演奏を聴いてやろうじゃないの」という意気込みでSDLXに向かった。

クリスマスで華やぐ通りを避ける為に電車を使わず、バスで6丁目で下り、F*!#in'なヒルズにあまり近寄らないようにSDLXに着く。即興のライブに人が少ないという今までの経験から、果たして10人ぐらいは客がいるのかどうかと思ったけれど、トータルで30人は超えていたようで少し驚く。30人で驚くのだからビッグ・ビジネスな音楽のライブにしか行ったことのない人には冗談のように聞こえるかもしれないけれど、オレはホントに驚いた。まあ、なんとなくサブカルな客もいたのでこの人数なのだろうけれど・・・。

結局前置きが続いてしまったけれど、実は演奏内容については特に書く事はない。というのも、MCは3時間の音を体験すると言う事が何よりも重要なものであるはずで、その時間からどれだけの音を記憶しているかと言う事はあまり問題ではない(と勝手に思う)。なので3時間の即興演奏という行為に拘りたいのだけど、それを結局オレはどう聴いたか?、そして聴きとおすことが出来たのかと言えば、行く前の妙な気合はそんなに必要なかったと言える。簡単に言えば、3時間という時間はそんなに厳しいものではなかった。だけどこれは、SDLXという場に依存したとも言える。MCのスタンスについてはwww.japanimprov.comに載っているのを見てもらえばわかるのだけど、そういう取り決めの中で演奏できる場というのは、通常のライブハウスでは難しい。だからその初期の演奏は体育館などで行われていて、しかも元々は4時間の演奏行為だった。それが現在では3時間に短縮された事と、SDLXがライブハウスであるという事から、演奏を聴きながらバーでアルコールや食べ物を手に入れることが出来る。体育館でそれらを売っていたとは思えないので、その頃の演奏を聴きに来ていた客は、4時間殆ど演奏に向き合う事を強いられていたのではないだろうか? フラットに配置された演奏者の前や後ろを客は好きなように往来する自由があった。あっち行ったりこっち来たりする人や、寝転がりながら聴いている人、あまり身動きせずに聴きとおしている人等様々で、それぞれのやり方で3時間の即興の場に居た。オレは東京エールをゲットする為に2度バーに向かった以外は特に立つ事も無く、最初に座ったところから場所も変えなかった。移動してそれぞれの演奏をじっくり覗き込む事もいいのだろうけれど、なんとなくそういう行為は趣味じゃなく、目に入る範囲での演奏行為を見たり見なかったりして、演奏を聴いていた。