高瀬アキ / 井野信義

昨日、仕事の時間も終わったので帰ろうと思ったけれど、なんとなく真っ直ぐ帰るのもツマラナイと思い、ピットインのスケジュールをチェックすると高瀬アキと井野信義のデュオでのライブがある事を知る。高瀬アキの名前は知っているけれど、CDはBerlin Contemporary Jazz Orchestraの『Live in Japan '96』を持っているだけ。それも面子に林栄一が含まれていたから聴いたものなので、高瀬アキの音の印象は持っていない。井野信義は高柳昌行の作品に数多く参加しているし、2年前の高柳昌行フィルムコンサートで生音を聴いた事もある。その時は思った以上の演奏だった記憶はあるけれど、特にその後井野の音を聴き多と思うことは無かった。だけどこういうベテラン達の演奏も一度は聴いておきたいという気持ちはあったので、あまり期待せずにピットインに行く事にした。

昨夜演奏された楽曲の多くはOrnette Colemanのもの。Ornetteは結構聴いているけれど、タイトルをあまり覚えていない為、どの曲が演奏されたは書けない。さらに、Dolphyの「Hat and Beard」、Monkの「Crepuscule with Nellie」、Carla Bleyの「Walking Battery Woman」、そして高瀬アキの自作曲等が演奏された。

「期待せずに」というのは失礼な言葉だった。ピアノとベースのデュオという事がその一因ではあるけれど、それよりも、過激な音やグルーヴのあるものをライブで多々聴いてきたことからのおごりのようなものだったと思う。書かれた曲、それも、他人の書いた曲を演奏されるという内容だったけれど、選ばれた楽曲のどれもが耳に残る曲であったし、それを演奏する2人の音も申し分なかった。

高瀬アキはジャジーというよりも、クラシック的な端正な音に聴こえた。その音がジャズで羅列されるさまは、選んだ楽曲が特異な面を持ったものだった事との相乗効果があり、アドリブの為に演奏を聴くというジャズではないものにしていたと思う。

井野信義は常に高瀬をサポートしながらも、時折挟み込んでくるフリージャズを知っている音がカッコいい。アルコの響きも柔軟で、その音が高瀬の音をより一層引き立たせた。

アンコールでは、ジャズ評論家であり詩人の故清水俊彦氏へ捧げられた曲が演奏された。「蛍の光」から高瀬のオリジナルと思われる曲につながるこの演奏は、昨夜で唯一リリシズムを感じるものだった。