1997-2007 田村夏樹 藤井郷子 帰国10周年記念コンサート

今年は田村夏樹と郷子ねーさんが日本に拠点を戻して10周年という事で、昨夜はその記念のコンサートが新宿のシアターモリエールとういところで行われた。

そのモリエールは普段は劇場として使用されるところのようで、なので名前を聞いたのは今回が初めてで、そこに行くのも初めて(といってもよく通るところなのですぐにわかった)。ここは何かを見るというにはなかなか適した座席になっていて、後方に行くとスロープ状ではなくきちんと段差をつけてあって、さらに椅子の配置も前列と後列を互い違いになるようにしてあって、かなり好印象。こういう配慮は、シーティングという場では必要だという事を、いろんな人が気付くべきだと思う。



ライブは18:00開場18:30開演という、とてもジャズのコンサートとは思えないスケジュール。それでもキッチリ開場前に到着して、好きなところに座ってみることが出来た。

ライブには郷子ねーさんの東京オーケストラとカルテット、さらに田村のGato Libreの3種類のバンドが出る事になっている。なんとなくGato Libre→カルテット→オーケストラの順だと思っていのだけど、舞台をみて「もしかして」と思ったように、オーケストラの演奏から始まった。あまりオケは好きとは言い難いけれど、一年ぶりぐらいに聴くと、12人もいる管楽器が一斉に音を出すその音圧にちょっと持っていかれる。この大所帯でもキッチリ郷子ねーさんの難曲を演奏するのだから、流石といわざるをえない。この日は演奏できる時間が短かったのも良い方に働いた。

10分程度でセットチェンジも終わり、続けての登場はGato Libre。なかなかオレの行動範囲内でライブをしてくれないので、今回が初の生の演奏に接する機会。そしてその生の音は絶品。かなりやられた。このユニットでは曲のテーマを吹く程度の印象しか残さない田村のラッパは、だからこそ良いと言いたくなる。郷子ねーさんのアコーディオンは、楽器の特性を生かした一音を引っ張る音がものすごく良くて、もちろんシンセなんかでもこういう音の出し方は出来るけれど、アコーディオンのその音は格別。そしてベースの是安則克とギターの津村和彦の2人が凄く良い。是安のベースの音はこれこそアコベの音といえるようなもので、音圧で演奏しないユニットにおいては、このシンプルな響きが当てはまる。淡々としているようで感情豊かな音。そして津村の音も文句の付けようがない。ギタリストのエゴを殺しているかのように演奏しているように聴こえるけれど、そのフレーズ一つ一つが印象深いし、時折ハッとする音も入れてくる。このギタリスト、完全に好きになった(勿論音の事)。

というわけでトリはカルテット。今頃になって今年初のカルテットの演奏を聴く事になった。それどころか前回は昨年の6月だから1年以上も間があいてた。このバンドの面白さは、とにかく演奏のダイナミズムだと思う。達者すぎる演奏者それぞれが、郷子ねーさんの楽曲に捕らわれながら個性も出していく。それはCDでは伝わらない部分があり、だからこそライブでそれを確認する事が必須。かなり久し振りに音を聴いた早川岳春。オレの中でナスノミツルやIngebrigt Haker Flatenの評価が高くなっている中、もしかしたら早川に物足りなさを感じるんじゃないかという懸念があった。だけどそれは徒労で終わった。単純なアグレッシヴさだけをとればFlatenの方がインパクトはあるけれど、早川の演奏はそこに終始しない(楽曲を演奏しているから当たり前だけど)。攻撃的だけど早川の音にはキッチリとジャズがある。こうやって、特定の楽器の演奏者の個性の違いが感じ取れるのは面白い。吉田達也もPaal Nilssen-Loveを最近見たせいで若干危惧する部分があった。そして、最初はそれを感じてしまって、ちょっと吉田の音をぬるく感じてしまった。こっちはどうしたもんかと思わないでもなかったけれど、聴かせどころはキッチリ上げてくる感じで、吉田も曲の枠に捕らわれる部分においてはそこを忠実にこなすという事をこのバンドでは明確な目的にている事を再確認。郷子ねーさんとデュオ状態になったところでは、吉田らしさが前面に出ていたし、久々に磨崖仏語も聴けたし、終わってみればやはり面白いと思ってしまう。



時間に終われる形で矢継ぎ早に演奏が行われた為、節目のライブというよりもショーケース的なものを感じさせるところはあった。だけどこういう試みの面白さはあったし、長ければいいというものでもないという事は普段からオレが思っている事。

最終的にどれぐらい入ったのかは知らないけれど、郷子ねーさん絡みのライブであんなに人が入ってるのを見たのは藤井郷子4の時ぐらいかも。普段からもう少し人が入ってもおかしくないと考えるオレとしては、なんか変な気分でもあったけれど。




記念という事なので物販を物色。でも郷子ねーさんや田村夏樹のリーダーもしくはそれに準ずる作品をほぼ持っているオレとしては、唯一持っていなかった飛浮動を買う事に決めていた。だけどもしかして見落としているものがないかとチェックすると、郷子ねーさんとCarla Kihlstedtのデュオアルバムなんてのが並んでいるのを見つける。手に取ると最近リリースされたものだという事がわかり、その2枚を購入。飛不動が¥2,800でデュオが¥2,000。あわせて¥4,800なので¥5,000札を差し出す。すると物販のおねーちゃんが「はい、¥2,000のおつりですね」と言ったけれど、お釣りはキッチリ¥200で、まるで「(¥100を)はい100万円のお釣り」的なネタかと思ったら、どうやら普通に間違えて言ってしまったらしく、笑ってしまった。