Scorch Trio - 八木美知依 / Ingebrigt Haker Flaten / Paal Nilssen-Love

先週のThe Thingのライブは『北欧Hot! 2007』というお題目が付いていて、その企画として昨夜はピットインでScorch Trioのライブが行われた。Scorch Trioのリズム隊はThe Thingのリズム隊なわけで、このスケジュールを知ったとき、まさかこんな短い間にPaal Nilssen-LoveとIngebrigt Haker Flatenがスウェーデンと日本を行き来するとは思えなかったので、この間も日本のどこかでライブがあるのかと思って調べたのだけど、そういう事ではなく、日本でThe Thingのライブを行った後中国に行ってThe Thingのライブを行うというスケジュールになっている事を知る。中国にもこういう音を聴く層が出てきた事に少し驚いたりしたのだけど、少しずつあの国も、選択の自由みたいなものが出てきたという事なのだろうか?

いきなり話がずれた。今回初来日のScorch Trioには、前座として1stに八木美知依 / Ingebrigt Haker Flaten / Paal Nilssen-Loveのトリオでの演奏がある。これは『Live! at Super Deluxe』の面子。そのライブは見れていなかったので、ここでその組合せが見ることが出来るのは凄く得した気分。というか、この組合せ単独でも当然ライブに行った。

その1stセットは完全に即興だったと思う。そういう演奏をする事が目的だろうし、だから出来不出来は勿論あるのだけど、音の指向性みたいなものの共通点がこの三人のインプロでは感じられ、ツマラナイ瞬間は少ない。簡単に言えば、ガチガチのヨーロッパ・フリー的な音。八木さんの音は叙情性も奏でるけれど、そうじゃない部分の演奏は、かなり硬い音色を使って音を放つ。そこにオレはBailey的なものを感じるのだけど、あのルックスからはとても想像できない音は、内に秘めたサディスティックなものだと思う。Flatenは、弦の数では八木さんに太刀打ち出来ないけれど、それを掻き毟り、弓で激しく撫で、対応。PNLは激しいドラムも聴かせるけれど、やはりアプローチとして小物も多用。前にも書いたように、その小物の扱いはあまり好みではないけれど、でもやはり、ヨーロッパ的な情け容赦無い感じがあり、この組合せでは友好的。このセットは激しく音がぶつかっても、単なる熱というよりよく使われる表現で言えば青白い炎の様な熱があって、日本人同士のインプロでは聴けないものを聴いた。

短めの1stの後、休憩を挟んでいよいよScorch Trio。CDを聴いている限りではThe Thingよりも好みな音なので、期待度は高い。Ingebrigt Haker FlatenとPaal Nilssen-Loveのリズム隊に対するギタリストは、Raoul Bjorkenheimというフィンランド在住のギタリスト。CDは散々聴いたのでどういう音がなるのかの予想はしていたけれど、やはりライブで聴くのは一味も二味も違う。Bjorkenheimは他の北欧のギタリストの印象とは異なり、かなり激しく大きな音でグイグイ攻める。ロック的なダイナミズムとでも言えばいいのか、アヴァン系とは違ったアグレッシヴな音で、それが始終鳴りっぱなし。変化球的に、エレクトリック・ヴィオラ・ダ・ガンバとかいう、ヴィオラとギターのをくっ付けた様な楽器を使い、それがアコースティックな音を奏でるのも効果的だった。Flatenは、なんとこのユニットではエレクトリック・ベースを弾く。完全にアコベだと思っていたのに、よく考えればアルバムでもエレベな音だった様な気がするけど、なんとなく、あれだけアコベが弾ける人がエレベなんて想像できなかった。そのエレベを使うときには卓上に音をいじる小物、いわゆるエレクトロニクスと表されるものが多々並んでる。マーク・ラパポート氏がFlatenを紹介する時に「ナスノミツルどうのこうの」と言っていたけれど、ナスノはあんなに小物を並べてないので、楽器は違うけれど内橋和久の方がが思い浮かんだ。そのエレクトロニクスな小物もFlatenは使いこなしながら、やはりエレベでもヤバイ音を使う。あまりグルーヴィーなタイプではないけれど、こういうエレベもいい。今回の来日で、Flatenはかなり好きなベーシストになった。PNLは1stとは違って、真骨頂のスピーディーで音のデカイ叩きを披露。ギターもベースも煽りまくり。何でバテないのかこの人?

全体的にかなりカオスティックな場面がありながらも、それでも音は団子にならず、ちゃんとそれぞれの音が耳に入ってきた。演奏されていた曲は即興なのか書かれたものなのかわからないけど、そういう事はどうでもいいようなレベルで音が鳴っていた。ギター・トリオという編成で、ここまで終始激しい音が鳴っていたのもあんまり覚えがない。