The Thing

昨夜はThe Thingの2days最終日。当然新宿ピットインに向かう。初日のゲストは一応当日まで未発表だったけれど、昨夜は当初から大友良英が加わると発表されていた。

初日と同じくまずはトリオでの演奏。昨夜見ていたおかげで、この演奏がある意味ウォーミングアップである事をわかっているのだけど、それでも凄いという感想は消えない。このまま最後まで突っ走ってもらっても構わないのだけど、前日のJim O'Rourkeが加わった演奏と大友が加わる演奏でどういう違いがあるのか?という事への興味も消えない。

The Thing vs ゲスト・ギタリストという部分の結論から言うと、音が前に出てThe Thingとやり合っていたのはO'Rourkeの方の印象が強い。大友はこういうセッションでいつも思うのだけど、前面に自分の音を押し出すよりも、バッキング的な色合いが濃い演奏になっていると思う。それは大友とO'Rourkeの個性の違いであり、或いは年齢的にいくらかの枯れの部分が大友に出てきたという事なのかもしれない。それとやはりセッションの場の数の違いがあるのだと思う。音楽一本やりの大友に比べて、映画関係の勉強のために日本に滞在しているO'Rourkeとでは、音楽の場での演奏の数にひらきがあるはず。だからO'Rourkeは数少ない本性を発揮できる場であった昨夜の演奏で、かなり高めのテンションで演奏する事が出来るのだと思う。対する大友は、自分のエゴをさらけ出す場とそれだけではない場を考えているんじゃないだろうか? といっても、勿論大友も我を出す場面はある。1stではあまりそういう場面は見られなかったけれど、2ndにおいては大友の独壇場と言える時間があり、演奏のコントラストみたいなものは初日に比べて昨夜の方が強かった。

主役のThe Thingの面々。まず、初日最も印象に残ったIngebrigt Haker Flatenは、多少おとなしい印象。それは初日よりもアルコを多用するシーンが多かった為だと言える。だけど音が幾層にも広がっている中、ピッチカートで太い音を浮かばせてくる瞬間はかなり耳が引かれる。初日同様半端ないドラミングを聴かせるPaal Nilssen-Love。初日はあまり印象の無かった金物、小物を使った音が昨夜は印象的で、芳垣安洋のような響きを追い続けるような音の使い方と違ってせわしない音ではあったけれど、だからこそ面白いというか、やはり音へのアプローチの違いのなせる技なのだろう。好みとは言い難い音だったけれど、面白いとも思わせてくれた。そしてMats Gustafsson。昨夜はMatsの音が一番印象に残った。大友に合わせたのか、2ndは休み無しの演奏。その間Matsは吹きまくり、最後にはかなり体力を消耗していた。だけどその姿も納得できる力演で、アルトやスライド・サックスも良かったけれど、やはりバリトンでの咆哮が強烈。ヨーロッパ的なフリー・インプロよりもアメリカ的なフリー・ジャズの臭いがプンプンする音で、そのアクがいい。

全体的には、初日と比べるとやや大人しい印象。それは両日のギタリストの個性の結果だと思う。こう書くと昨夜の方がイマイチな印象という感じに聞えると思うけれど、それは少し違う。昨夜のほうの音は明らかに音響派という言葉を取り込んでいて、勿論、O'Rourkeこそ元々音響派と呼ばれるバンドに属していたのだけれど、それとの違いを持った、日本やヨーロッパで特に発展した弱音を取り込んだ音響派といえるものを昨夜は持ち込んでいたと思う。それが顕著に現れたのがアンコールで、初日はフリー・ブローの様な演奏だったけれど、昨夜は音響的なもので激しさという表現とは違うものだった。



やはり2daysとも行って良かった。だけど気になったのは、思ったほど人が入っていなかった事。満員札止めだとばかり思っていたのに、立見がいるかいないかぐらいで、ちょっと寂しい感じがした。今回のライブの呼び屋はマーク・ラパポート氏がメインで行ったと思うのだけど、それには色んなところから力を借りたという事をマーク氏がMCで言っていて、例えばノルウェー大使館が力を貸したりしているという事に驚く。それは日本の公的機関がこういうアンダーグラウンドな音に対して助成をすると思えないからで、もしそういう事をやるとするなら、某石原都知事のように身内の手助けになるような事しか考えられない。とか考えながら、classicでPantaを聴きながら帰路に着いた。




別に引き合いに出す必要はないのだけど、あえてBattlesに話を絡めてみる。ネットをウロウロしてBattlesライブの感想を見ていると、ドラムのJohn Stanierは凄かったというような意見が多々見受けられて、オレはそう思った連中にPNLのドラムを聴いてみて欲しいと思った。それはPNLの方が凄いとか、そういう事を言っているわけじゃない。大体Helmetをずっと聴いているし、実はThe Mark of Cainも好きなオレにとってStanierは良いポジションの存在。だけど、Stanierに良い印象を持った連中がタイプの違うPNLの壮絶な叩きをライブで目の当たりにしたら一体どう思うのか?という興味がある。それと、The Thingのような圧倒的な迫力を持ったバンドをフジ・ロックの様な場に呼んでみて欲しい。ロックファンはThe Thingを聴いてどう思うのか?、それが興味深い。