Axel Dorner / Sachiko M / 大蔵雅彦 - Otomo Yoshihide's New Jazz Quintet - Otomo Yoshihide's New Jazz Orchestra

今回のONJOの3日と4日の2daysに加えて、4日の昼にAxel Dorner / Sachiko M / 大蔵雅彦のセットとONJQのセットのライブが用意されていた。この三つのライブのうちもし一つしか行けないとしたら、オレが選ぶのは4日の昼。それはONJOよりもONJQが聴きたいという考えプラス、Axel Dornerをじっくり聴きたいという事。現在来日中のAxel Dornerは、他にも色々なセッションをやっている。ジャズ寄りなプレイはONJOでも確認できるけれど、例えジャズの花形楽器のトランペットとは言え、ONJOの人数を考えれば常にスポットが当たるわけではない。そして弱音系としてのAxel Dornerの音を聴くのなら、さっちゃんとの組合せというのは興味を引かれる。さらに、もしかして今までにもONJOに参加していたようだけど気に留めていなかった大蔵雅彦というサックス吹きが加わるというのも、興味が増す結果になる。

という事で、いきなり夏らしい暑さがやってきてしまった東京の真昼間、汗っかきで夏が苦手なオレは、とにかく早く着いてビールを飲む事だけを考えてピットインに向かう。しっかし、こんな陽気に昼間から新宿の地下のライブハウスに行って弱音な音響セッションを聴く。正しい夏の過ごし方。

1stセットがAxel Dorner / Sachiko M / 大蔵雅彦のセッション。3人が入場し、Axelがボソっとさっちゃんに何事か呟く。するとさっちゃんがピットインの店員に「空調切ってますよね?」と訊ねる。あわてて空調を切るピットイン側。こんな陽気でも余計な音は省きたいらしい。まさかこんなセッションが行われるとは予想していなかった観客も多かったようで、なんとなく客席にも緊張感が走る。そしてピットインとは思えないぐらい静かになり、演奏がスタート。

前日のONJOのライブでも色んなテクニックを駆使していたAxleだけど、この静かなセッションでは、その息遣いを含めた色んな音が際立つ。デカイ音で表現する事がラッパの持ち味だろうし、その構造を考えても、ある程度強く吹きこまなければ音を出す事も出来ない。それを、本当にスレスレな音をコントロールしていく。かなり驚異的なテクニシャンだと思う。さっちゃんと大蔵も、従来の音楽的なものとは違う反応を持ち込み、盛り上がる場所を探したり、みんなで歌を歌ったりするような音楽とはまったく別の次元のものを提示。

別にオレはこういう音が特に良いと言うつもりは無い。だけど、こういう音が存在する事によって、色々と気付く事がある事も確か。本当に静かな中で、わずかな音を意識的に拾おうとする努力をする事、それにはテレビで垂れ流されるものを聴いて、まるでサブリミナル効果のようにそれのCDを買ってしまうこととはまったく別の行為。

ユリイカ大友良英特集号を読んで知ったのだけど、あのオフサイトでも実際の集客は微々たる物だったらしい(オレも結局縁遠かった)。それを思えば、ピットインにいた観客の殆どはあの手のライブに接した事がある人は少ないはず(オレもこのブログの一番最初の投稿になったFillamentのやつしか見てなかった)。その割に、結構頑張って静かにしていたと思う。

2ndはいよいよONJQのセット。大友良英の口ぶりでは、「菊池某が抜けて以来の・・・」という言い方をしていた。だけど、6月にONJQとしてライブやったんじゃないの? オレが見に行きたくてした無い状態だったけどRHCPに行ったあの日にやったんじゃないの? と、その事は結局???だったけれど、まあいい。とにもかくにもONJQでのアプローチがやっと聴けた。

面子としては、ギターの大友、サックスの津上研太、ベースの水谷孝、ドラムの芳垣安洋にAxel Dornerが加わる。AxelはONJOでもONJQでも、パーマネントなメンバーという事にはならないけれど、それでもCDやヨーロッパでのライブには加わっているし、ゲストでありながらそうでもないという感じがいい。そして他の4人は、この面子がONJOのコアでもあるという事がよくわかる。まあとにかく、1stの音響セッションとはまったく違った音楽が吹き荒れる。文句なし。ジャズという名前を使うからには人数が少ない方が、個々の音がよく聴き取れて楽しい。圧縮されたONJOと言いたくなる場面もあるし、ONJOとはベクトルが異なっていると思うような演奏もある。やはりONJOがあってもこのユニットも続けるべきだと思う。ちなみに、前日のONJOの時に大友が言っていた「みんなが大好きなあの曲」とは、多分「Eureka」の事だったと思う。この曲の演奏が個人的にはベストだった。



そして夜の部、前日からプラス4された12人編成のONJO。大蔵と青木タイセイ石川高宇波拓の4人が加わった。この面子でやる事が大友の理想なのだろう。ちなみに12人という大所帯になってしまった為、ステージの目の前の客席をどかして、大友はそこからステージに向かって座っていた為、客には後姿しか見えない。カヒミが後ろ向きだと大問題だけど、そうじゃないので文句は無い。前日と同じく1stがセットをフルに使った長い曲で、2ndがこれまでにONJOが演奏してきた曲を演奏。

4人増えるという事がどういうことになるか?、というのがテーマだといえる。元々2daysは違う曲をやるつもりだったようだけど、大友自身の考えが変わったようで、似たようなセットリストになったらしい。「らしい」というのは、オレが相変わらず曲を覚えていないからで、全曲同じでは無かった事はわかっているのだけど、「これは前夜もやってたっけ?」と思うものもあって、この辺のダメさ加減はそろそろ何とかしたい。

4人増える事によって当たり前に音色、音数が増える。だけどそれを上手く消化してしまうだけの力量がこのバンドには備わっていて、そのせいか、前日よりもスッキリした印象を受ける。なので、どちらかといえば初日のライブの方が気に入っているのだけど、それはそっちを最初に聴いた印象のせいもあるかもしれないので、優劣という事ではない。新たに加わった4人が、どちらかといえば(良い意味で)効果音的に音を扱える人達である事を考えると(そうじゃない瞬間も勿論ある)、やはり全体に陰影のようなものは増えた。だけどそれは、好みによって左右される部分がある。でも、初日の8人編成の演奏を気に入っているけれど、例えば石川の笙の音がオレは大好きだし、タイセイの名バイプレイヤーな演奏、そして大蔵のバスクラなんかは印象深い。

相変わらず上手くまとめきれない。とにかく、二日とも見に出かけて正解だったって事。勿論昼の部も含む。



1stの長い曲、オレは大友が作曲したものだと勝手に思っていたのだけど、ネットを検索するとBertolt Brechtの曲である事が発覚・・・。なんか、前日の投稿は迂闊な事書いてる。仕方ない。BrechtはHanns Eislerとセットで名前を見る事はよくあるけれど、何かを聴いてみようと思った事は無かったし、今後もなかなかそういう事にはなりそうに無いけれど、Kurt Weill並に耳にする機会があってもいいはず。




ライブのMCの面白話も結構あるのだけど、その辺は割愛。でも一つだけ気になる事を。ブログを見ればわかるように大友良英石原都知事に対しては手厳しい。オレは同意見なのでOKなのだけど、大友ファンにも石原支持派がいると思うのでライブではそういう話は避けた方がいいかもしれない。「商売において野球と政治と宗教の話は禁句」って言われているぐらいだし。

初日と二日目に物販を使ってしまった。それで初日に話題の某レーベルのタオル(さっちゃんも使っている!!)を貰った。その日は仕事帰りなのでそれを鞄に入れて持ち帰った。だけど二日目は手ぶらなのでタオルを持ち帰る事が出来ず(オレは基本的に休日は手ぶら / 夏場は財布・タバコ・ライター・鍵・iPod nano・ケータイを全てボトムのポケットに突っ込む・・・ / 寒くなれば上着のポケットも使えるのに・・・)、タオルを渡されたけど断るという暴挙を・・・。レーベルの社長は「いらないんですか?」とちょっと寂しげだったけれど、「いえ、昨日も貰ったので大丈夫です」と言うと、「それでも貰ってください」というような事を言われた。そこで正直に、「今日は手ぶらなので持ち帰れないのです」と告白し、決してタオルが欲しくないわけではないという事をわかってもらった(はず)。