Dee Dee Bridgewater

90年代中ごろだったか、フリーソウルというよくわからないものが日本で流行った事がある。70年代辺りの一発屋とか、当時は評価されながらもその後は時代の徒花的な扱いでCD等で復刻されないようなものを、重箱の隅をつつくように拾ってきてCDにコンパイルして、それをそういう言葉で上手く商売したもので、フリーソウルなる呼称も元々UKで出ていたコンピで使われていたものを、まるで日本発祥の言葉みたいに扱っていた。単にマイナーなもの、マニアックなものを集めただけだったりするので、つまらない楽曲も多く、セレクトするヤツの「オレってばこんなに詳しい」という姿勢が見えていて、結構どうしようもない代物だった。だけど何故か延々とそのシリーズは続いており、ネタが尽きるとソウルとかR&Bだけではなく、ジャズなどもセレクトしだしてとりとめないし、さらに結局Marvin GayeCurtis Mayfieldのベストまで出して、なんとかあぶく銭を手にしようと躍起になっている姿に言葉がなくなる。まあ、商売というのはそういうものなので、別にお金のためにそういう事をやる事自体を否定するつもりはないけれど、このフリーソウルが厄介だったのは、これに手を出しながらろくにMarvinもCurtisもOtis ReddingStevie Wonderも知らないようなヤツラがいて、なぜそういうものが重要な作品としていつまでも支持されるのかを知らないままで、対して面白くもないものを、崇めるような態度だったと思う。



別にフリーソウルを叩きたくて書いているわけじゃ無い。Dee Dee Bridgewaterの新作『Red Earth』について書きたかったのだけど、そもそもDee Deeを初めて聴いたのは、多分フリーソウル周辺の動きから『Just Family』とか『Dee Dee Bridgewater』が再評価されてからだったと思い出したからで、叩いてはいるけれど、オレもフリーソウルのいくつかのCDを持っているし、そこからの再評価が生んだものがあることは否定するつもりはない。まあ、程々で止めていれば良かった、と言いたい。

また話がずれたけれど、とにかくDee Deeの『Just Family』や『Dee Dee Bridgewater』はオレも気に入っていて、その後Dee Deeの当時の最新作なんかも手を出したけれど、普通にジャズだったりして、あまり繰返し聴くような事はしなかった。だけど新作『Red Earth』はジャケットも良いし、購入時はレコファンが輸入盤¥200引きだったので、なんとなく購入。だけど特に期待して手にしたものじゃ無いので、結局聴かずに長いこと眠らせていたのだけど、それを聴いてみて、その行動に後悔。

これはいわゆるジャズなアルバムではなく、購入前から知っていたけれどアフリカ音楽(マリらしい)を多分に含んだ音。まるでM-Base派のような「Afro Blue」で幕を開け、いかにもアフリカンな歌が絡む「Bad Spirits (Bani)」、アラビックな歌との絡みの「Dee Dee」、さらに「Mama Don't Ever Go Away」にもゲスト・ヴォーカルが入るけれど、こちらは特にアフリカンではなく少しだけ甘い歌声。さらにこの曲はピアノの音が少し印象に残るけれど、それでもジャジーな音ではない。フルートが印象的な「Footprints」。ここではピアノがジャジーな音の運びをしていて、やっとジャズなはずのアルバムを聴いている気分にさせるけれど、リズムのメインがパーカッションの為、Kip Hanrahanな音になっている。「Children Go 'Round」ではソウルフルなDee Deeの歌声が響き、終盤にはジャズを歌っていたからと言えるフェイクも飛び出し、更に多重録音のDee Deeの声が重なり熱が上がる。「The Griots」ではコーラス隊と中盤でソロをとるアフリカンヴォーカル等が音の厚みを演出し、「Oh My Love」では、Dee Deeはジャズ・シンガーだったのかどうか、よくわからなくなる。ハイブリッドな感覚が、もう一度M-Baseを思い起こす「Four Women」、コーラス隊との掛け合いが気持ちいい「No More」、タイトル曲の「Red Earth」はブルースな歌と曲で、迫力を感じさせる。「Meanwhile」は淡々と進む演奏に、Dee Deeが陰影を付け、終曲「Compared to What」はR&BかR&Rかと思わせる軽快な曲。



要するにこの『Red Earth』は、ジャズ・ヴォーカルのアルバムではなく、ほとんどアフリカン・ポピュラー音楽を聴いている感覚。その事をどう思うのかはそれぞれなのだけど、オレはこれをかなり気に入っている。Dee Deeがこういう音楽をする事が、ここまで違和感の無いものに仕上がるという事に、意外な感じと、血の成せる技と、フランスという場所の独自性を思ってしまう(Dee Deeはアフロ・アメリカンながら、近年はフランスに居を構えている)。









Dee Dee Bridgewater 『Red Earth』