Bjork

個人的には前作『Medulla』は傑作だと思う。あれを「楽器でやれる事をわざわざ人の声に移し変えただけ」という意見もあるけれど、それが凄いんじゃないか?と、思う。ポピュラー音楽のシーンであれをやって見せた事、前衛ではなく従来のソング・フォーマットであれをやった事の意味は大きいはず。

そのBjorkの新作『Volta』がリリースされた。良くも悪くもこの人は、いろんな国の色んな音楽シーンから、注目を浴びる。勿論オレもそのリリースの報から、この日を待っていた。

1曲目「Earth Intruders」は、アルバムのオープニングらしい疾走感溢れる曲。Timbalandの作ったリズムにChris Corsanoのドラムがどう関わっているのかよくわからないけれど、まあ、そういう組み合わせで、更にKonono No.1の親指ピアノがブレイク部分で登場。4分30秒を過ぎたあたりでリズムがフェードアウトし、曲が終わったかと思っていたら同一トラック上でバスな音の管楽器が船の汽笛のようなリフレイン。

そのリフレインからつながるように2曲目の「Wanderlust」。この曲のアタック音の強い打ち込みはMark Bell(一瞬これもTimbalandかと思った・・・)。それに金管楽器で編成されたようなホーン陣が音を載せ、Bjorkは得意の多重録音を駆使したヴォーカルを披露。この打ち込みとホーンの同居は微妙な違和感を作っていて、わかりやすい楽曲なのに印象に残る。

3曲目の「Dull Flame of Desire」はAntony & the JohsonsのAntonyとのデュエット。見た目のフリークス感とは違い、中性的な声だけどわりとマトモにオペラチックな歌い方のAntonyに、Bjorkの感情を抑えた歌声。淡々としていたリズムも終盤に向けヒートアップし、リズムのみになって次曲につなぐ。

「Innocence」の声ネタも使ったTimbalandのユーモラスな感じのトラックは、かなり強めのリズムが響く。ヒップホップの手法を使いながらもヒップホップをあまり感じさせないところがTimbalandの良さでもあり悪さでもあるとオレは思うのだけど、その本領が発揮されたトラック。

続く「I See Who You Are」はスローテンポ。氷の楽器が奏でているようなリフに絡む中国式琵琶のMin Xiao-Fen(Baileyとの共演歴有り)。恐らくMinには自由が約束されているのだろう、その音色やフレーズはDerek Bailey八木美知依を思わせる。このアルバムでの個人的なベスト。

6曲目の「Vertebrae by Vertebrae」は、現代音楽のオーケストラのような不気味な音のホーンが終始鳴り響く。そのホーンにあわせてあまり主張しないドラム。中盤からヘヴィーな打ち込み音が重なり、ホーンは相変わらず現音のオケの様に鳴り響く。

雨音のサンプリングで次曲「Pneumonia」につなげ、穏やかなホーンの響きの中、Bjorkも澄み切った歌声でスケールの大きな歌声を聴かせる。ノン・ビートのこの曲は、アルバム中最も静的でありながら、不穏な響きが印象に残る。

8曲目の「Hope」には、Toumani Diabateのコラをフィーチャー。このトロピカルな感触もある楽器が終始音を奏で、このアルバムの清涼剤として響く。

一転してオーバートーンなギターの音がリフを奏でる「Declare Independence」。今回のアルバムで最も攻撃的な音。中盤からハードコアのような四(八)打ちが加わり、チープなインダストリアルといったところだけど、この間のNINよりも遥に刺激的。

終曲「My Juvenile」はClavichordの不穏な響きにのせて、再度BjorkとAntonyのデュエット。

日本盤のボーナス・トラック「I See Who You Are (Mark Bell Mix)」は、アルバムの流れからは完全に蛇足。

全体的にはホーン陣の響きが印象的。特にリズミカルなトラックで対位法的に音を重ねているところは、個人的にはかなり気に入っている。



アルバムの印象はこんな感じだけど、これ、どういう評判になっていくんだろう? 面白いけれどトレンド・セッター的な感じもある。前作『Medulla』が問題作という扱いになったことから、こういう作風になったのだろうか? でも、色んなものを一つのアルバムに押し込めて、それを違和感なく同居させているという事を考えれば、これはBjorkの到達点じゃないかとも思える。

ちなみに初版のジャケットは余計な事になっています。オレはキレイに剥がして左側に貼りました。









Bjork 『Volta』