サノバラウド 25

ライブは基本的に短くていいと思っている。その方が聴く側にも集中力の持続が要求できるし、時間も色々有効に使えるだろう。だから何組も出てくるようなものは避けているのだけど、たまにはいいかと思い、『サノバラウド 25』というイベントを昨夜見てきた。

場所はO-East子供の日のこの日、O-Eastを選んだのだから満員なのは仕方ないと思いつつ、5に拘ったPM5:55の開演ギリギリにO-Eastに着き、中に入ってみる。閑散としている・・・。O-Eastの全体像を初めて見た。つーか、マジでこの入りでいいのか?と思っていたら、開演時間になったらしく、アコギを持った男がステージ中央に。



ライブ開始。アコギで弾き語りを始める。が、何を歌っているのか、全然聴き取れない。というか、この手の人も出るライブだっけ?、セッション系じゃなかったっけ?と思いつつ、そのアコギで歌う男の前にはほとんど人がいない状態。ただでさえ人が少ないのに、見ている人はオレも含めて皆遠巻き。このセット、無理だろ。音がいくらなんでもアコギの弾き語りに向いていない。と思っていると、二〜三曲歌ったところでドラムが追加。どうも、急遽ついた感じで、曲を探りながらなんとかビートを入れようとしている。うーん、と思っていると演奏終了。満足に拍手も貰えずにステージを去る。

うーん。と思っていると、客席から向かってメインの右側にサブ・ステージ(DJブース?)があり、そこの幕が開いてなんだかちょっと不気味な一団。「鶴の恩返し」を朗読する女性と、糸巻きを回す女性、ミシンを使っている女性、はた織り機を使っている女性・・・。それらの機械が動く音が音楽を作り出す。見た目はあれだけど、ちょっと面白い。なんか、手法としてはあれだけど、悪くはない。まあ、見た目があれなのも、見るという意味では面白いし。

そのサブの演奏が終わると、メインのステージの左端で演奏が始まる。メタル・パーカッションといえば聞こえのいい感じだけど、なにか金物(でかいバネ)をガシガシ叩いてビートをはじき出す三人と、ギターを思いっきり何かにこすり付けてノイズをはじき出す一名。Einstuerzende Neubautenが頭に浮かぶ。最初はちょっとウザイと思っていたけれど、なんかこの響きは嫌いじゃ無い。特にギターを使ったノイズが消えて、金物をハンマーで叩き続けるようになってからは勝手にグルーヴも感じてしまった。

その演奏も終わり、ギターでノイズを出した後、メタル・パーカッションに加わっていた男がマイクで喋りだす。ああ、この男が藤乃家舞か。ふうんと思っていたら、なんと最初のアコギ男が浅野忠信だと紹介する。あれ、浅野忠信だったのか・・・。それならそうと最初に言えば、ウソでももう少し盛り上がってたはずなのに・・・。名前で音楽やっちゃうと、その名前がわからない状態ではほとんど相手にされないという現実を思い知ってしまっただろう浅野忠信。可愛そうに・・・(まあ場も向いてないし、アコギ弾き語りに向いているセッティングじゃなかったという事も損な部分なので同情は出来る)。糸巻きチームの説明もしていたけれど、全然知らない人たちなので、名前を聴いてもよくわからない。

そして、次はサブ・ステージで梅津和時、片山広明、Samm Bennett、藤乃家のセッション。さすがに音楽の度合いが違う。ガッチリ音が入ってくる。名前はよーく知っているけれど、初めてその音を聴くSamm Bennett。なかなか激しいドラミングで、カッコいい。ここまで叩く人だったか。聴いた事もないのに、なんとなく変な仕掛けのイメージが強いせいで見くびってた。ごめんなさい。このセットは、それまでに比べれば明らかに従来の音楽というスタイルに即したものだけど、だからこその強さを発揮。片山のワン・トーンでの咆哮も良いし、梅津のノン・ブレス等、流石のワザも飛び出す。藤乃家がベース・ソロを弾いている時は、片山が「頑張れ若いの」とでも言いたげな眼差しを送っていて、微笑ましかった。

貫禄十分なセットの後、メインでリトル・トーキョーというユニットと外山明の共演。今回足が向いた理由の一つの外山の登場。リトル・トーキョーはガムランなユニットらしく、そのガムランな響きにあわせて(恐らく)好き勝手に外山がビートを叩き込む。ありえないタイミングで叩き込む。こんなタイミングでビートを突き刺せるのは外山以外には無理。ここのところ色んなタイコを聴いたけれど、外山はヤバい。おかしい。バスドラのタイミングとかありえない。この人やっぱ、サンプラーとしか思えない。惚れ直す(ゲイではない)。リトル・トーキョーは藤乃家のユニットらしく、ここではギターを担当。ベーシストかと思っていたのでギターは余芸かと思ったら、なかなか聴かせる。両刀使いだったか。モンゴルなヴォーカル(ウルティンドゥーというらしい)もなかなか良くて、ちょっとこのセットは今後も注意すべきかも。

リトル・トーキョー+外山のセットも終わり、藤乃家が「次は内橋& 成田」と紹介。サブが開くかと思ったらそうでもなく、セットチェンジに時間が必要なのかと思っていたら、過激な音が響く。内橋の音だと思ったけれど、メインにもサブにも姿はない。オレは後方で見ていたのだけど、フロアの客がなんか上向きにステージと反対方向を見ている。ん?、と思いフロアに下りて二階を見ると、二階のベランダな両端に成田宗弘と内橋和久が左右に分かれて演奏。「仮面ライダーみたいだ・・・」と思いながら、上方を見上げつつ演奏に聴き入る。内橋はオレのブログではいわずもがな。このライブに行った理由の一つ。そして成田はいままでここに書く機会はゼロだけど、High Riseのギター。未だにライブは未見だけど、High Riseは実は結構好きなバンドで、だから成田は一度聴いてみたいと思っていた。それが内橋との共演という格好の場。二人のギタリストによるぶつかり合いになるかと思ったけれど、お互い反目せずに音を引きずり出す。何せ思いっきり見上げる形なのでハッキリしないけれど、内橋はいつもの様に卓上にエレクトリックな仕掛けを用意してそれを扱い、成田は少々のエフェクトをフット・ペダルで使っているぐらいだったと思う。そもそもタイプ的に、インプロは百戦錬磨の内橋とあまりそういう舞台での活躍のない成田とでは土俵が違うと思うけれど、内橋の普通とは違う音に対して成田はいかにもギターな音で対抗していたと思う。どちらもノイジーな方を向いていて、まるでLou Reedの『Metal Machine Music』を聴いているような気分になった。ちなみにこの日一番の重低音を出していたのもこのセット。会場がビリビリ揺れた。これは小さいハコでは体験出来ない音。大満足。

続いてメインでは、Yamp Koltというこれまた藤乃家のユニット。怪しげなタブラの集団が透明の囲いに入っている姿は、某新興宗教団体を想像させる・・・。その周りにベース、ドラム、メタル・パーカッション、竪琴、そしてホーメイなヴォーカルなどが取り囲み演奏。タブラのアンサンブルを重視した演奏は宗教的なグルーヴを作り、ゆらゆらした気分になる。そこに突然ファンクなフレーズを藤乃家が挿入。一気に現代的なグルーヴに変貌。このユニットもなかなかイケル。ホーメイなヴォーカルは口琴も上手く使い、いい感じに演奏に絡む。そしてゲストで加わった梅津と片山の両ベテランも楽しげに咆哮。全体でのインプロ・スタイルでの演奏は、なかなかのカオスを生み出す。ドラムの藤掛もKiller Mantisの時よりも全然良かった。

実はこの日、この『サノバラウド』以外にもう一つ行ってみてもいいと思っていたライブがあって、それは日比谷野音の『Man Drive Trance Festival』なのだけど、面子的にこの『サノバラウド』の方が好みなオレはこっちを選んだ。だけど一つ不思議な事があった。『MDTF』には個人的にイマイチなFlying Rhythmsが出演しているはずなのに、そのメンバーのLatyr Syも『サノバラウド』に名を連ねている。どうなんてんの?と思っていたら、そのLatyrがサブに登場し、デカイ木魚のようなパーカッションを叩き始める。まあ多分、『MDTF』での出演後駆けつけたのだろう。その木魚を叩きながらアフリカン・ヴォーカルを披露。そしてその横にはあふりらんぽのタイコ担当ぴかちゅう用のドラムがセットされているけれど、ぴかちゅうは見当たらず。が、Latyrのアフリカンな歌に勝手な日本語で応える声が・・・。ん?と思って二階のベランダを見上げると、ぴかちゅうがへんてこな踊りをしながら勝手に変な歌を歌う。Latyrのアフリカな言葉を勝手に日本語の音に変えて歌ってやがる。わらかす。ぴかちゅうはそのまま二階からまだ次のステージをセッティング中のメインまで降りてきて、そこから柵を渡ってサブの前まで移動。ステージによじ登る。やるな、ぴかちゅう。ぶっちゃけ、二年ほど前にこのO-EastSonic Youthの前座として見たあふりらんぽの演奏はイマイチだったけれど、さすがはアヴァンなロック界の暴れん坊、じゃなくてアイドル。その傍若無人な演奏も面白かったし、Latyrとの漫才も良かった。つーかLatyr、この人も面白い喋りをするのは反則。パーカッションといえばラテンなものに注目してしまうけれど、Latyrのアフリカン・パーカッションはカッコよかった。

場の空気を変えたセットも終わり、いよいよ大取りのキリヒトの登場。個人的に今回、最も聴きたかったのは実はこのキリヒト。もう10年前ぐらいに法政でこの手の色々なユニットが登場してくるライブで見て以来。時々思い出してはCDを聴いたりしてたけど、ライブについての情報がない事と、あまりCDがリリースされていない状況なのでもしかしたら活動中止しているのかと勝手に思っていた。それが今回久々にその名前を見つけ、最悪、これと内橋のセットが見れれば飽きたら帰ろうと思っていた。今回はYamp Koltのホーメイなヴォーカル&エレクトロニクスの山川冬樹との共演。立ったままで強烈なビートを作り出すドラムと、足でカシオ・トーンを踏み鳴らしながらギターを弾くヴォーカル。このスタイルは変わってないけれど、10年前に見たより明らかに音圧が増してる。山川のヴォーカルやエレクトリックな音も上手くマッチしている。この日のどのバンドよりもロックだけど、勿論ノーマルなロックじゃない。でもやっぱり、音楽の伝わり方がダイレクトで言う事なし。



ライブの終了は23:30近く。五時間半見ていた事になる。飽きたら途中で帰るつもりだったけど、結局最後まで見てしまった。あまり知らないユニットが多かったけれどそれが逆に飽きさせなかったのか?、よくわからないけれど、とにかく楽しんだ。ビールもガンガン飲んだし。

気になるのは集客の低さ。最終的には300名ぐらいは入ったのか?、よくわからないけれど、O-Eastであの集客はちょっと寂しい。見る側にとっては、あっちいったりこっちいったりして自由に移動できるスペースがあってよかったのだけど、主催にとってはあれは苦しいよなあ。あの集客を予想していたのなら、なかなか太っ腹。

その主催の藤乃家舞、実はほぼ知らない存在だった。辛うじてキリヒトの『ライブ・シングル』に共演した演奏が含まれているのだけど、ぶっちゃけ、名前が名前だけに演奏者じゃなくて、踊り子で、しかも女性だと思っていた。それが『サノバラウド』を見に行くことに決めた時点で、CemeteryRecords(藤乃家舞のレーベル)をちょっと見て、ベーシストであることはわかったのだけど、それでも女性だと思っていた・・・。こういう勘違いは得てしてある。で、昨夜のライブを見て、この男の才能を思い知った。演奏者としてだけではなく、そのアイディアや行動力には今後注意が必要。リトル・トーキョー他で29日にSDLXで『サノバラウド 26』(今回のような大規模ではない)をやるようで、外山もその日は参加予定という事からちょっと行ってみたいと思ったけれど、残念ながらその日は別のライブのチケットが既に手元に・・・。