Paal Nilssen-Love / Peter Brotzmann / 八木美知依 / 坂田明

で、折角Paal Nilssen-Loveの本領を発揮できそうなライブがピットインであるという事で、相変わらずやるべき事をやっていないような気がするけれど、故植木等R.I.P.)の様に無責任男なオレは、あるいは、浅田彰いうところのスキゾ・キッズなオレは、色んな事をお構いなく、ピットインに向かう。



昨夜のピットインのNilssen-LoveとBrotzmannに八木さんという組み合わせは、そのときの八木さんの姿がYouTubeにもアップされているように、コンクスベルグ・トリオと言ってもいいもので、昨夜のMCのマーク・ラパポート氏が語っていたけれど、某ミュージシャンがダブル・ブッキングで参加できなかったところにBrotzmannが急遽参加して行われたものという事で、偶然の成果があのライブだったらしい。実際にそのジャズ・フェスティバルでは30分程度の演奏だったという事なので、フルセットでこの組み合わせが聴く事が出来るというのは、幸運としかいえない。

さて、そのコンクスベルグ・トリオ、各々が素晴らしいミュージシャン且つ、優れたインプロヴァイザーである事を考えれば、まずどうでもいい時間は生まれにくい事が想像つくのだけど、そういった意味では想像の範囲内の演奏。この場合、その想像が外れる事の方がマズイという事。SDLXでは音が聴こえにくい時間もあった八木さんは、エレクトリックな音がいない事もあり、箏なのかギターなのかベースなのかわからないぐらいの音を繰り出しまくる。Brotzmannも二日前と変わらず、冠が変わったからと言って手を抜くそぶりは無い。そして最も気になっていたNilssen-Love。開始前のラパポート氏のMCで、「この20年で最もインパクトのあったドラマー」(形容の記憶は曖昧 / 多分間違っている)と紹介されていて、「そんなに凄かったかなあ・・・」と思ったのだけど、流石にセットを通して聴く事によって、その本領を聴いた事によって、ラパポート氏の評価がよくわかった。SDLXではあまり圧力を感じなかったけれど、昨夜は1.5倍増しぐらいの状態。あれだけ叩き続けるにもかかわらず、疲れが感じられない。エネルギッシュで、正確なドラミングは、その音楽的語彙として、ジャズ〜フリージャズから得たものが多そうで、ラテン的なパーカッシヴさが無い。そのため横に揺れるような瞬間は感じられず、小物を使う事も少ないのだけど、ある意味ストイックといいたくなる容赦なさは、昨夜、世界中で最も強烈なビートが鳴っていたのは新宿だった、と、断言できる。

1st中、Brotzmannの音を聴きながら頭をよぎったのは坂田明だった。60を超えたフリーのサックス吹き、Brotzmannも凄いけれど、日本にも坂田という凄い人がいるんだよなあ、と考えたりした。そしたらなんと、2ndに登場したゲストはその坂田。作り話みたいだけれどホントの話。日本とドイツの誇るサックス吹きが揃い踏みとなり、SDLXの2ndを凌駕する混沌を聴かせる。坂田の先発から始まる管楽器同士の絡みは、坂田がサックスの音色に忠実な音でのソロをとるのに比べ、ダーティーな音色をガツンとぶつけるBrotzmann。或いは、容赦ないBrotzmannではなく、まるでAylerの様に美しくサックスを響かせるBrotzmannに、絡みつくようなサックスを鳴らす坂田、と、お互いに手抜きを知らないこの二管の咆哮は、鳥肌が立つ瞬間を味あわせてくれる。そしてそれを聴きつつも、自らの音を主張する八木さん。Bailey張りの音色は、ソロでクラシックスあたりでライブが聴きたくなるし、ベース楽器の変わりにグルーヴを提供し続けるという役割も担う。この人が演奏に嵌っている時はトリップしたかのような顔になるのだけど、昨夜の2ndは終始そんな表情だった。そしてNilssen-Love。2ndはさらに容赦ない。圧巻。もう、おかしいぐらいに叩き続ける。だから笑うしかなかったのだけど、ホント、この人が凄いと形容される意味がよーくわかるセットで、こんな豪腕ドラマー、凄いとしか言い様が無い。