Peter Brotzmann / 近藤等則 / 山木秀夫 / 芳垣安洋 / ナスノミツル / Paal Nilssen-Love / 八木美知依

Peter Brotzmannという名前を聞いて思い浮かぶのは、あの非情なサックスの音。ヨーロッパ・フリーという言葉の代名詞的存在でもあり、だから、どちらかといえばジャズファンはBrotzmannがあまり好きじゃなかったりする。オレも初めて聴いた時は、その音を「硬直している」としか思えず、内面に訴えかけてくるアメリカのフリー・ジャズとは違って、あまり楽しむ事は出来なかった。その後は特に意識していなかったけれど、とにかくBaileyの音を聴き漁っているうちに『Nipples』を聴く事になり、ついでに『Machine Gun』を聴いてみて、最初に聴いた頃よりは受け入れられる状態になった。そのBrotzmannが来日、スーパーデラックスで、芳垣安洋ナスノミツルと共演となれば、行く。当たり前。仕事終わってないけど向かった。

東京ミッドタウンとかいう素晴らしいものまで出来てしまって、クールな六本木はますますクール。あの威圧的なヒルズのビル群と同じ様なものが、防衛庁跡地に建設していたとは気付かなかった・・・。代官山が中心に低層のヒルサイド・テラスを据えて見せてるのに対して、六本木は見た目から2ndバブルの真っ最中。まあ、何をしようが知ったことじゃ無いけれど、麻布十番あたりの町並みには手を出すなよ。と、思う。



タイトルを見てもらえばわかるように、Brotzmannと芳垣、ナスノ以外に、近藤等則山木秀夫も参加という事もあってか、昨夜のSDLXはオレが何度か行った時からは考えられないぐらいの人数が押し寄せていた・・・。



1stセット、いきなりBrotzmannに芳垣&ナスノという、オレにとってのハイライト。ほぼ完全即興と思われるセットで、芳垣はAltered Statesの時に見せる芳垣に近く、テンション高めの叩き。だけどひたすら煽るのではなく、Brotzmannの音をフォローするような叩き。Brotzmannらしい音を引き出しながら、他のセットとの差別化のためか、音楽的に持っていく部分を忘れない。ナスノは珍しくアグレッシヴ。あまりああいう面を見たことが無かったので少し驚いたけれど、やはりBrotzmannを意識した結果なのだろう。だけど途中から余裕が出てきたのか、ナスノらしいグルーヴを伴ったフレーズを決めるようになり、さすがな一面を披露。全体的にはタイトなセットだったけれど、いくつかの転換点をもっていたので、セットを通して一曲という構成も長いとは思わせなかった。



2ndセット、Brotzmannに近藤と山木という組合せに、ゲスト扱いで八木美知依が加わる。確かにチラシにはゲスト有りと書いてあったけれど、ライブ前から箏がステージにあれば、そのゲストが誰だかすぐにわかる・・・。近藤は昨年末に東京を吹いてくれるのを聴いたので、もう、今後はライブを見ることは無いと思っていた。だけどこうやって共演という形ならば、まあいい。そして山木。このブログでは初めて出る名前。実際、今年になるまであまり興味の対象ではなかったけれど、あのFriction本で山木の名前が出てきて、さらに偶然知り合いのドラム叩きに「日本人のドラムで好きなのっている?」と聞いた時に彼の答えが、「ポンタと山木」という答えだった。ポンタはよくある答えなので特に驚きは無かったけれど、最近Friction本で名前を見かけたばかりの山木の名前が知り合いの口から出るとは思っていなかったのでちょっとビックリ。それで、その山木というタイコ叩きも機会があれば聴いてみようと思っているところにこのライブで、こういう接点は必然。その山木のドラムは、凄く日本人的だと思った。レックがNYでチコ・ヒゲのドラムを聴いた時に日本人のドラムだと思ったと語っているけれど、オレが感じたのがそういう事なのかどうかわから無いけれど、言葉にすると同じ事になる。山木のスティックがマレット状のものだった事が大きく関与している気がするけれど、それだけじゃなく、バスドラのタイミングもなんとなく和太鼓的に聴こえて、結果こういう感想になった。まあいずれ、山木も違う形で確認したい。このセットで近藤はエレクトリック・トランペットを使う。東京を吹かれた時はわりとまっとうな音だったと思うけど、今回は歪んだフリーキーな音を連発。さすがというところを聴かせてくれた。八木さんは珍しく普通の格好。じゃなくて、今回は管楽器二本がフリーキーに鳴らす中、さすがに音が埋もれる瞬間が多くちょっと苦しい。もう少し箏の音量を上げて欲しかったけれど仕方ない。それでも演奏自体はヤバめなガツガツが出る瞬間もあって、彼女の中の悪魔は相変わらず。

セット全体としては、いかにもフリーな部分が多くを占めていて、阿鼻叫喚な咆哮を浴びた。



3rdセット。1stと2ndの間にドラムセットを組み直すのは叩く人が変わるから当たり前だと思っていたけれど、3rdも組みなおし。芳垣が叩くのかと思ってみていたら、なんかヨーロッパ系な人がローディーと一緒にドラムを組んでいる。というかこの人、どう考えてもPaal Nilssen-Love。おいおい、ってなもんだけど、まさかNilssen-Loveもゲスト扱いで呼んでたとは・・・。ということで最後はBrotzmannとNilssen-Loveのデュオ。Nilssen-Loveは一度Atomicのライブで聴いたけれど、あのバンドはカッチリ曲を演奏するバンドなので、Nilssen-Loveの本領発揮とは思っていなかった。なので今回のセッションは興味津々。事実上、ヨーロッパNo1のドラムがそのベールを脱ぐ瞬間。大げさか。見た目ではなんとなくパワーヒッターなイメージだけど、割と細かく叩くタイプで、当然手数は多いのだけど、うるさいと感じるようなことは無い。スピードも申し分なく、スムーズなドラミングで、なんとなくJim Blackに近いような感じを受けた。変態度数は低めだと思うけれど、アベレージはめちゃくちゃ高そう。でもそんなに長いセットだったわけじゃないので、Nilssen-Loveの個性を掴むのは次の機会に持ち越し。



さて、主役のBrotzmann。デビュー40年、齢65を超えているにもかかわらず、3セット吹ききる体力にまずは敬意を。そして衰えを感じさせないアグレッシヴな音は尊敬に値する。凄かった、ホントに。




今回のPeter Brotzmannの来日公演のマネージメント自体がそうなのか、昨夜のライブだけがそうなのかわからないけれど、とにかく昨夜はマーク・ラパポート氏のオーガナイズだった。Brotzmannの体力的なことなのか、セット間がちょっと長かったけれど、あれだけの面子をSDLXのようなハコに集めて、凄い演奏を感じさせてくれて、さすがによくわかっていると思った。ミュージシャン達にはもちろんだけど、マーク氏にも敬意を。



ライブの終了は23:00ぐらい。オレはSDLXならバスで渋谷まで帰るというのが普通なのだけど、なんと最終に間に合わず。だからといって地下鉄を使うとかなり鬱陶しい思いをするのは目に見えているので、「タクシーかあ・・・」と思いながら歩き出す。10分ほど歩いたとことで、テンションが高い状態であった事も手伝って、最後まで歩き通す事を決め、途中ビールを買い、やっと眠れる場所にたどり着く。約一時間。折角SDLXで飲んだ四杯の生ビール(モルツ三杯 / 東京エール一杯)のアルコールは、この一時間で消し去られてしまった。