芳垣安洋BC5

昨夜は久々にライブを見に行ったのだけど、本当はRed Hot Chili Peppersの来日コンサートを見に行くはずだった。が、ご存知の方もいると思うけれど、先週突然の来日延期が決定・・・。一瞬落胆したけど、オレは「じゃあ、あのライブにいける」と思い直し、すぐに機嫌は直った。

実はRHCPのチケットを取った後に、ピットインで芳垣安洋メインのライブがある事を知ったのだった。だから今回はピットインでやる芳垣のライブとしては珍しくスルーしなければいけなかったのだけど、結局行ける事になったというのは、オレは引きが強い。これは普段の行いだろう。

という事で昨夜のピットイン、客入りは大体いつも通り。今回はBC5なるユニット名が付いていて、芳垣のセッションやバンドでは最も重要なメンバーといえるマルチな才能の青木タイセイ、昨年スーパー・デラックスで爆裂した演奏を聴いたベース&チェロの佐藤研二、そして今回初めて名前を知ったラッパ&ギターの木幡光邦とチューバの高岡大祐というメンバー。演奏される楽曲は、Vincent Atmicusや芳垣のセッションでいつも演奏されるような楽曲ばかりなので、曲名はわからずとも曲そのものは聴き覚えのあるものばかり。

まず気になるのは初めて聴く二人。木幡のメインはラッパのようなのだけど、昨夜の印象は殆どギター。これが余技ではなく、きっちりジャズ〜ブルース〜若干アヴァンの流れの音を持っていて、なかなか聴かせる。アウトするというよりも、確定したラインを聴かせる感じだけど、ぶちきれない斉藤“社長”良一を聴いているような感じと言えばわかってもらえるだろうか? ラッパもアンサンブルには加わる事が多く、激ウマな印象ではないけれど、その辺は役割分担なのだと思う。高岡はチューバだけの担当。普段あまり聴く事の無い楽器なので、他と比べてどうこうという事は出来ないけれど、ちょっと間の抜けたベース音というのもなかなか面白い。楽器が楽器なだけに、ソリストとして聴かせる瞬間は少ないのだけど、管楽器がアンサンブルする時、この楽器の存在は大きい。そのチュ−バがいた為か、メインはチェロだった佐藤。演奏前に芳垣と「いつもの1/10の音量」という取り決めがあったらしく、ベースを弾くときでも音量は前に聴いた時より全然小さい。だけどそのテクは申し分なくて、とにかく上手いベーシスト(音数多いけど)。チェロもアコベの様に聴かせる部分も多く、こうやって抑えて演奏する事が出来るのならば、プレイヤーとしてのユーティリティー度数が上がると思う。いつでもどこでも芳垣の右腕のタイセイは、相変わらずの流石な演奏。ボントロ、鍵盤ハーモニカ、フルート、ピアノと、八面六臂とはこの人のためにある言葉。普段あまり聴く事の出来ないピアノでは効果的な音を入れる事が多く、鍵盤ハーモニカの響きを聴いて、「凄くハーモニカの音色と近いな」と、改めて当たり前の事を思わせてくれた。強烈な個性みたいなものを前面に押し出すタイプではないけれど、この人がいるという事が日本の音楽シーンに深みを与えている。芳垣にとってだけではなく、いろいろな意味で最も重要なミュージシャンの一人である事を再確認。

で、肝心の芳垣。いつもの、らしいプリミティブな演奏と、一気に熱を上げる叩き込みをバランスよく聴かせる。音楽的なスタンス、そのドラミング、やはりオレの最も好きなミュージシャン。四の五の言う必要無し。

VAでも聴かれる曲が多かったのだけど、確か1stの二曲目あたりのタイセイの曲の演奏時、そこでの管楽器のアンサンブルがなんか聴いた事があると思ってちょっと考えてしまって、「なんだっけ?」と考えていて思い出したのは、Jacoのオケの音に似ているという事だった。たった五人でそのうち三つのブラスが奏でるアンサンブルが、或いは二本プラス鍵盤ハーモニカの時はToots Thielemansがハーモニカを吹いている時は、Jacoのオケが奏でるアンサンブルを聴いているようで、なんか得した気分になれた。

演奏された曲として珍しかったのは、本編最後の加藤崇之の「皇帝」。この曲は昨年芳垣が加藤とのセッションでも演奏していたけれど、本人抜きでも演奏したくなるのがよくわかる名曲。昨夜も本当にいい演奏だった。そしてアンコールではBrian Enoの「By This River」。これも昨年のKC5で演奏しているのを聴いたけれど、こういう曲をセレクトしてくるあたりに、芳垣がジャンルではなくて、単純にいい曲が好きだという事がよくわかる。美しい演奏だらけ。RHCPが延期になって、ホントによかった。