Tracey Thorn

ネオアコとかいうブームがオレが中学生とか高校生ぐらいの時にあったらしい。ギリギリAztec Cameraと何故かelレーベルを知っていたぐらいで、シーンとしてのそれについては知らなかったし、まるで興味が無かったのだと思う。大体その頃のオレは、Iggy PopとかLou Reedに嵌りまくっていた時期。なのでEverything but the Girlとかいうユニットの名前は知っていたけれど、ただのヒットチャートな連中という認識だった。それが大きく変わったのはドラムン・ベースに嵌ったせいで、『Walking Wounded』というアルバムを聴いてからだった。その後『Amlified Heart』の「Missing」なんかもなかなかいいと思ったけれど、それ以前のネオアコなebtgやAORなebtgに対しては、今でもあまりいいものだとは思っていない。



が、Robert Wyattが好きなオレはebtgのBen WattがWyattと共演していたりしたせいで、そのソロ『North Marine Drive』を聴いたり、何故かTracey ThornがVelvet Undergroundの「Femme Fatale」をカバーしていたりしたせいで、そのソロ『A Distant Shore』も聴いていたりする。だけど現在のebtgは閉店休業状態で、Benがハウスにハマって作ったミックスCDの『Lazy Dog Vol.2』や、レーベルまで立ち上げて作った『Buzzin' Fly Vol.1』とかも聴いてみたけれど、良くも悪くもフロア志向のものとしか思えないもので、そっち方面にしか興味がなくなったかのようなBenの動向を見ていると、ebtgのシャッターは永遠に閉じられたのだと確信した。

そういう状態が何年も続いていたけれど、とうとうTraceyが長い隠居生活から足を洗って、25年ぶりのソロ名義のアルバム『Out of the Woods』を出してきた。だけどこのアルバムのリード・シングルの「It's All True」を初めて聴いた時はあまりの古臭い音に半笑いしかできなくて、「Traceyも終わった」と思った。



が、残念ながら『Out of the Woods』は、オレの予想を覆した出来栄え。音としてはebtgのラスト・アルバム『Temparamental』を継承したものといえて、エレクトリックなポップス集という言い方で当てはまると思う。「It's All True」は単独で聴くとかなり痛い音だったけど、アルバムの流れで聴くと不思議と悪くない。個人的には、6曲目「Easy」と次曲「Falling Off a Log」の楽曲と流れが気に入っているし、全体としても気持ちの良い、粒のそろった楽曲と音になっている。この辺のセンスはさすがとしか言い様が無い。エレクトリックなネオアコ、と言ってもいいか。

小洒落たモノが好きな皆さんもお気に召すでしょう。クラブ系な皆さんはリミックス系が出るまでお待ち下さい。









Tracey Thorn 『Out of the Woods』




でもTraceyって、ホントはアコ路線がやりたいって前に言ってなかったっけ? なぜ結局この路線? ebtg好きで『Buzzin' Fly Vol.1』すらも肯定する日本海側に住む若干一名、調べてメールして下さい。



それはそうと、Traceyのベスト・ワークは、個人的にはMassive Attackの2nd『Protection』に収められた「Protection」だと思っている。この曲はMassive Attackの楽曲として考えても最上。なのでebtgのアルバムを一枚だけ選ぶとしたら『Like the Deserts Miss the Rain』。この(ベスト)アルバムには「Missing」も「Walking Wounded」も「Protection」も入っているので、ebtgはこれだけで十分。

って、これで終わらせるとさすがに怒られそうなので少しフォロー。オレの、Tracey Thornという歌手に対する評価はかなり高い。UKの女性シンガーの中で最高の歌手だと思うし、クールで暑苦しさが無く、憂いも翳りもある声と歌唱は、洗練された女性シンガーという部分でのシンボリックな存在だと思っている。だからこの人には、ある程度のクオリティーの楽曲とトラックが用意されれば、いつでも質の高いものを作る事ができるということは前々からわかっていた。ただ一つだけ、まあ、ビジュアル的にあれなので、写真とかビデオとか、そういったものは不必要。



最後の一言は、フォローどころか喧嘩売っているようにとられるか・・・。