UA / 菊地成孔

気になったらという事で、『Cure Jazz』を購入。鈴木正人のライブにUAが出てこなければ無視し続けた作品。期待と不安半々ぐらい。が不安が当たった。ネットやMMでの評なんかを見ても結構評価の高いアルバムだけど、オレは受け入れにくい。それはオレの苦手な最近の菊池成孔のせいじゃなくて、UAの歌い方にある。

という事で、改めてUAという歌手について考えてみる。『11』でアルバム・デビューしてから現在まで、冷静に考えてオレは本気で気に入ったUAのアルバムは無い。内橋和久がプロデュースした『Breathe』ですらも、気に入っているものとは言い難い。それはUAの歌い方が変節してしまってきた事に起因していると思う。最初期のUAは、クラブ系の方から注目された存在だった。ソロ・デビュー前、藤原ヒロシの「Sweet Vibrations」という楽曲に歌でフィーチャーされ、その後ソロでシングル『Colony』やミニアルバム『Petit』を経て、ブレイクするきっかけとなったシングル『情熱』や、『リズム』といった辺りまでは、年中UAを聴いていた。とにかくその頃のUAはカッコよかった。ところが満を持してでた1stフル・アルバム『11』は、シングル以外の楽曲の印象が弱く、イマイチな印象。2nd『Ametrora』、3rd『Turbo』は良かったけれど、4th『泥棒』以降のアルバムはやはり気に入っていない。結局オレにとってUAという歌手は、シングルは良くても、アルバムは傑作と思えるようなものを作ってくれていないということになる。それが、例え聴き続けているといえる対象であっても、菊池と組んだと言うだけで、アルバムをスルーしてしまおうとした原因なのだと思う(ちなみに、Kahimiの『Trapeziste』はスルーしなかった)。

じゃあ、なぜ気に入っていながら気に入っていないという複雑な状態なのか?、それは、初期のころの(今に比べれば)ストレートな歌い方と声がマッチしていたオレは思っているからで、『泥棒』以降顕著になる、妙に技巧の入った歌い方がUAの声質とフィットしていないと感じている。よく言われるように、オレもUABjorkに大きく影響を受けてしまったと思っていて、それはBjorkという歌手のカリスマから考えれば致し方ないと思えるところなのだけど、UAにそれはマッチしていない。UAのあの声は余計な技巧を使うに向いていないし、そんな事をする必要の無いぐらいの個性を持った声なので、ストレートに、強弱のみの歌い方だけで十分に存在価値がある。たとえば『Cure Jazz』ならば、「Over the Rainbow」での余計なうなり声なんて、ただの奇天烈な印象しか残さず、バックの演奏の出来が良いだけにもったいないとしか思えない。それ以外の楽曲においても声をかすれさしたり妙に高域を使ったり、そういう手法が特にスローなテンポの曲では耳につくし、アルバムが70分を超える長さというのも聴き通すには辛い。ポエトリー・リーディングな印象の「Music on the Planet Where Dawn Never Breaks」がこのアルバムではベストと思えるトラックで、余計な事をしないUAがカッコいいという事が確認出来る。









UA / 菊地成孔Cure Jazz




まあ、ウダウダと書いた長文も、相変わらずオレの個人的な趣向をダラダラ書いているだけなのだけど、もしUAがストレートに歌いきるのならば、それがどんな楽曲でも、バックがピアノ・トリオでもギター一本でも、傑作と言える作品が出来ると思っている。だからオレが求めるのは、UAを客観的にプロデュース出来る人。今のUAは恐らくほぼ自己プロデュースと言える状態なのだと思うけれど、それを他者にゆだねる事によって、一つステップを上がる事になると思う。



『泥棒』以降のUAをあまり評価していないという事が言える状態なのだけど、シングルの『閃光』はUAのキャリアでの最高傑作だと思う。そして、Ajicoでの活動もオレは気に入っていて、あそこでは浅井健一という個性の強い歌手であり、ソングライターがいて、それにUAはバンドというスタイルではあったけれど、結局は浅井中心の音楽を歌うという事しか出来なかったはず。あの中でスタンスとしては同等であったとしても、実際にはそれは考えにくいし、そういう枠のなかでUAは浅井に負けないように、ただ歌うしかなかった。だからAjicoでのUAは後年に比べればストレートだったし、その成果は、『Pepin』という元々Blankey Jet Cityの楽曲をライブ盤の『Ajico Show』で歌ったときに現れている。ここでUAが先発して歌い、2ndバースを浅井が引き受けるのだけど、浅井の癖のある高い声にUAはストレートではないけれどトーンを落とした声を使う。これがカッコいい。男が高い声、女が低い声で絡む事になるわけで、その結果BJCのバージョンよりも、Ajicoバージョンの『Pepin』の方がカッコいい演奏になった。

そういう事なので、UAのアルバムで一番好きなのは結局ベスト盤の『Illuminate』で、現状はこれ一枚あれば事足りる。今後これに、オリジナル・アルバムが加わる状態になる事を望む。



菊池の事を忘れていた・・・。『Cure Jazz』の菊池を凄いとも思わないけれど、UAという素材を生かすことを考えた結果の演奏という印象。バックトラックの出来は文句無いので、特にケチをつける気は無い。ただし、歌わなくてもいいと思う。