鈴木正人

昨夜というか昨夕、17:00から原宿クエスト・ホールでの、鈴木正人Unfixed Music』のレコ発ライブを見てきた。高柳昌行のフィルム・コンサートを何度か見に行っているけれど、原宿でライブを見るというのは何年ぶりか。とか、相変わらずどうでもいいことを考えながらクエスト・ホールに向かった。というか、勝手にライブは19:00ぐらいから始まるものだと思っていて、16:00ぐらいに何時から始まるのかチェックしたところ17:00開演という事がわかり、結構焦りながらクエスト・ホールに向かう羽目になった。

ライブハウスでもないのに1ドリンク付である事に入場時に気付き、そのままドリンク・バーでビールを受け取り(ハイネケンかよ)二口で飲み干す。タバコ・コーナーでとりあえず一本と思い火をつけると、「間もなく開演です 早く席に着け、このボケども」とアナウンス(もちろん「早く席に着け、このボケども」とは言ってない)。仕方ないのでメチャクチャ体に悪い吸い方をして、席に着いた。



まずは鈴木に内橋和久と外山明というトリオ編成。二曲を繋げた演奏ということだったけど、即興と書かれた部分のバランスが良かった。内橋は行けるところまで行くという演奏とは違い、曲の骨格を意識した演奏。煮え切らないという言い方も出来るけれど、それをやると別のものになるのであれはあれで良いと思う。トリオでの演奏後、その面子に芳垣安洋青木タイセイ、塩谷博之が加わって、さらにゲストという形でスチール・ギターの高田蓮が二曲で加わる。この面子で一曲演奏後、青柳拓次が加わりバンジョーで一曲。その後高田が抜け(演奏後逃げる様に引っ込んだ為、鈴木は名前を呼んで称える事も出来ず・・・)、青柳は歌でもう一曲参加。そして青柳も引っ込み、さらにゲストでなんと予想外にもUAの登場。久しぶりに見たUA。何年も前にクアトロでのArto Lindsayのライブにゲストで一曲歌っていたのを見て以来。あの時はとにかく「細い」という印象だったけれど、今回はセーラー服のコスプレで登場・・・。初めは意味が分からなかったけれど、鈴木とUAは同い年という事で、そういう意味でのコスプレとの事。それもあんまり理由にはなっていない気がするけど、何故かここで鈴木もガクランを着させられる・・・。この手のライブでお笑いかますとはなかなかいい度胸。でも、歌はさすが。既にこの人、貫禄が出ている。実はオレはUAはデビュー時から聴き続けているけれど、ライブは見に行っていないし、昨年の菊池成孔との『Cure Jazz』はスルーした。だけど、やっぱああやってライブで生歌を聴くと、歌い手としてのUAは嫌いじゃ無い事を確認。それに写真で見るより生UAは美しい。二曲歌ってUAはステージを退いた。

ライブも架橋に入り、残り二曲という状態。ここで久しぶりに即興出来るミュージシャンのみの演奏になる。曲はCharles Mungusの曲。ジャズの曲という事で、ジャズ・マナーに沿ってアドリブ・リレーをする。まあこの辺はさすがという演奏。特に注目は芳垣と外山によるソロの応酬。ただの叩きあいという類のものではなく、お互いのやり取り、抜き差しが面白い。このトンデモな二人が並んでいる姿なんてまず見る事は出来ないわけで、昨日あの場にいた何割がその事がわかっているのか、あのドラムのやり取りの面白さをわかっていたのか知らないけれど、あれだけでも個人的には見に行った甲斐があった。

最後はトリオに戻っての演奏。アルバムでも最後の曲をここで演奏し、染み入るようなクロージング。そしてアンコールでは、鈴木がベース・ソロでAylerを思わせる曲を演奏。その実直な演奏は、鈴木というベーシストの人柄を表したものだった。




各々のプレイヤーの演奏については当然の様に文句無し。あの手のミュージシャン達のライブを普段見ているとは思えない客層だった事はいうまでも無いと思うけれど、そういう人達があのステージにいたミュージシャンに興味を持てば面白いと思う。

オレのブログでは何度も名前が出ている人たちは今回は置いておいて、初めて演奏を見たスチール・ギターの高田。スチール・ギターといえばやはり普通はハワイアンなのだけど、高田の音はそういう演奏ではなく、アグレッシヴな音。音そのものの響きにはハワイアンでの音と通ずるものはあるけれど、雰囲気を作るという演奏ではなくて、あの面子での演奏においてもソロを聴かせることが出来るようなもの、といえばわかってもらえると思う。ついでに青木のバンジョーも、硬い音でのフリー・インプロのような演奏もあり、なかなか面白いものだった。ただし、その高田や青木の音は内橋が使う音のバリエーションと似ていると感じて、それによって内橋というギターとエレクトリックな音を使うミュージシャンの技量の多さを再確認する事になった。



主役の鈴木正人を忘れていた。彼のベースには今まで少し線の細さを感じていたけれど、昨日はしっかり太い音を出していたと思う。やはり自分の名前でライブを行うという事の責任とエゴがそういう音になったのだろう。でも、強烈な個性というのはいまだ感じられず、それは彼自身がMCでいっていたように、常に裏方として演奏に加わっている意識のせいであると思える。それでも、Mingusの曲を選ぶというセンスは音や曲に対して強烈な個性のあるものに引かれるという一面の表れだと言えるし、ベーシストとしての強固な個性が足りないとしても、それは今後身に付けられるもののはず。それよりなにより、あの面子でありながら一貫して流れていたクールな感触は鈴木の作り出したものだと考えられ、要するにそれが鈴木の個性であり、それが個人的には面白く感じられるところだった。