David S. Ware

Flight of I』を聴いてから15年、David S. Wareの作品を聴き続けていることになる。CDで聴いているだけの判断でしかないけれど、テナー・サックスという楽器で最も美しい音色の持ち主。Wareの音にはオレがSonny RollinsJohn Coltrane、そして武田和命に求める音も含まれている。

Wareの作る作品はその殆どが彼のカルテットを用いている。ドラムだけは固定されず時折メンバーが変わるけれど、ピアノのMatthew Shipp、ベースのWilliam Parkerは不動。それぞれがリーダーとしても注目されるこの2人が10年以上にわたってWareの脇を固めているのだから、このグループは事実上、ジャズと呼ばれる音楽の中のグループとしては最も優れたグループである事に異を唱える事は出来ないはず。Bill EvanceのPaul MotianScott LaFaroとのトリオ、Coltraneの至高のカルテット、Milesの60年代のクインテット、そういったジャズ史上に残る名立たるグループと比べて知名度は落ちても、魅力という点において引けを取るものは無い。



昨年発売された新作『BalladWare』は、99年に録られながら長らくお蔵入りしていたもの。それが何故このタイミングで世に出る事になったのかは知らないけれど、タイトルが示すようにバラッド表現による楽曲のみを収録している。Wareの自作曲やいわゆるスタンダードな作品が収録されていて、その楽曲の全てが録音前に発表されていた作品に吹き込み済み。録音時はその再録という事になる。だから正直言って、今更特に驚いたりする事は無いのだけれど、バラッド表現の中にも毒を含み、スピリチュアルを含み、スケールの大きな音を表現している。









David S. Ware 『BalladWare』




長年このグループが来日してライブするのを待ち続けているのだけど、なぜか全然来日しない。ShippやParkerが来日する事も無い。ハッキリいって、今一番見たいグループなんだけど、積年の思いはいつ果たされるのだろうか?



実は『BalladWare』を手に入れるのは時間がかかった。このアルバムが出るという事はThirsty EarのHPを見て知っていたけれど、Availallになってもタワレコやディスク・ユニオンの店頭で見付からず。仕方なくネットを使おうと思い、とりあえずタワレコでオーダーするも、40日経っても入荷せずキャンセルにされてしまう・・・。ムカつきながら、値の張るamazon.co.jpにオーダー。やっとの事で、一週間ほど前に手にする事が出来た。



アルバムのリリースについての考察。なぜ99年に録音されながらお蔵入りしていたか? ネットで調べると、99年の長いヨーロッパでのツアーの後にスタジオ入りし、録音を残そうとするも、ツアーの疲れで消耗していた状態でいい録音が出来なかった為、バラッドに制限する事で、ある程度のクオリティを得られると考えた末の結果が『BalladWare』に収録されたも録音だと言われている。だけど長年お蔵入りしていたという事は、クオリティが自分達の欲するレベルではないか、あるいは契約上の問題だったと考えられる。契約上の問題というのは、99年当時Wareはメジャーのコロンビアと契約していた時期で、恐らくそこが求めるものとこの録音が一致しなかったのではないだろうか?という事で、オレは契約上の問題で出せなかったものだと考えている。それはこの作品のクオリティに問題が無い事と、実際に人前に出したくないものであれば、今更リリースするという事は考えられないという事。それがお蔵入りしていた理由だとして、では何故この時期にリリースしたのか?という事は、ライナーの付いていないこのCDのパッケージから読み取れる唯一の手がかりは、

“This Album is an Offering to Ganesh and Dedicated to Mikuro (1994-2006)"

という一文にある。Ganeshというのはヒンドゥー教の神という事は調べたのだけど、Mikuroがわからない。それでこれも憶測だけど、1994-2006というのはその生涯を示した数字であろうことは想像に難しくなく、『BalladWare』のジャケットが唐突な感じのする無数の花に囲まれた犬の絵である事から、MikuroというのはWareの愛犬だったのじゃないだろうかとオレは思う。その愛犬に捧げるアルバムが『BalladWare』の正体なんじゃないだろうか?、と思う。