藤井郷子 / 田村夏樹 / 外山明

年頭にあたって、今年はCDの購入を減らす事とライブ鑑賞をなるべく控える事を心がけた。従って昨夜からのピットイン藤井郷子2daysは熟考の末に金曜のオーケストラは行かない事にして、初日の田村夏樹、外山明とのデュオを見に行く事にした。



1stセットは郷子ねーさんと田村とのデュオで、昨年発売された『in Krakow in November』(※近いうちにインプレ書く予定)というアルバムの発売記念という名目。ところがこの『in Krakow in November』(※amazonは賢く使いましょう)、オレは未だに店頭で見かけたことが無く、ライブ当日まで未聴のまま。でも、これまでのこの二人のデュオ作は聴いているし、数年前にもデュオでのライブを見ているので、曲が何であれ、あんまり気にならない。セット後にわかるのだけど、『in Krakow in November』の全曲を途切れる事無く演奏したのが1stセットで、何となく知っている曲だと思いながら聴いていたのだけど、『in Krakow in November』のトラックリストを見て、それが間違っていない事を確認。そういう曲を、今までとは違うシンプルな編成で聴く事によって、その曲の骨格みたいなものが浮き彫りになるのを聴いている感じだった。田村はオープンに、だけどリリカルにラッパを鳴らす。相当なテクニシャンだと思うけれど、あまりそれを使うような演奏をせず(或いはそれを意識させていない)、あくまでもメロディーを聴かせる事を念頭に置いている感じがする。郷子ねーさんの演奏は、クレモニアでのソロのように、どちらかといえばクラシックを思わせるものだった。



休憩をはさんでの2ndは、郷子ねーさんと外山のデュオ。ドラムとのデュオといえば、当然吉田達也とのセッションを思い出すわけで、これも一度だけ見たライブでは、強烈なリフの叩き合いといった感じだった。果たして外山とは、吉田とのセッションの様に曲をやるのかどうか、まずはそこが気になっていたけれど、どちらも譜面を持っていない状態を確認したところで、このセットはフリーなセッションだという事がわかった。しかし実際には、郷子ねーさんは自作曲のフレーズをいくつもはさみこんでいて、表面上はある程度の構成があるようにうかがえる。でも恐らく、外山はそれを聴きながら自分のリズムを刻んでいたというのが、実際の演奏だったと思う。条件反射というよりも、少し考えてから音を入れる場面もあり、適当に叩いて上手くいけばいいという、いい加減なものとは違う事が伺えた。

外山といえばあの界隈でも注目度の高いドラムだけど、オレはライブでそんなに彼の音を聴いた事があったわけではないので、その個性みたいなものがよくわからない状態だった。だけど流石はデュオ。いままでわからなかった外山という個性が徐々につかめてきた。何も考えずに聴いていれば、何かが違うという事を感じるタイプではない。吉田達也のようにフレーズし続けるようなタイコなら、誰でも普通じゃないという事に気付くと思うけれど、外山はそういうわかりやすさは見つけにくい。芳垣安洋の様な、相手を鼓舞するような強い音を放つわけでもない。ドラムセットはかなりシンプルなセットだし、エレクトリックなおもちゃも持っていない。そんな状態で彼が叩くリズムは、普通の様に聴こえて普通じゃない。おかしくないのだけど何かおかしい、そう思いながら外山の音を聴いていて、ある瞬間にふと気付く。ドラマーらしいフレーズを使っていない。こう来たらこう来るというラインを使ってなくて、嵌っていそうでそうじゃないというか、なんか変な感じがする。例えば吉田達也なら、すぐに普通じゃないことに気づく音だし、芳垣安洋は色んなスタイルのリズムを内包している。だけど外山のそれは、睨みを利かすでもなく変態な音を放つでもなく、でも、普通じゃない。この感覚は打ち込み的なフレーズだと思った。シーケンサーに仕込んだいくつものリズムパターンを、外山は自らの感性で自由に入れてくる。突飛に使うわけじゃなく、わずかな変化を入れてきたり、熱が上がりそうになっても、冷静にリズムを並べる。

対する郷子ねーさんも海千山千。吉田達也やJim Blackという、特別なドラムと渡り合ってきている。余裕をかますわけでもないのだろうけれど、ガツガツ行くかと思えば、ピアノの弦をいじりだす。これはドラムは合いの手を入れにくいと思っていると、少し間を取って、キッチリとリズムを仕立ててくる外山。その後もお互いによりあい外しあい。だけど眉間にしわを寄せるのではなく、お互いに楽しそうに相対していく。

ちなみに郷子ねーさんは外山のドラムを「ひねくれたリズム」というような事を言っていて、オレは凄く納得してしまった。

で、アンコールになり、これはトリオでの演奏だと思っていたら、1stで仕事を終えた田村は既にアルコール漬け。という事で、2ndの組み合わせでのアンコールだったけれど、その曲が、知っている曲なのに思い出せず、なんか胸につっかえたまま帰路についてしまった・・・。

あれ、なんだっけなあ。それこそDavid S. Wareの「Utopia」っぽいゴスペルタッチというか、スピリチュアルな曲だったのだけど、でもあれじゃないんだよなあ。困った。