Telmary

私的2006ベストで悩んだものの一つが、Raphael Sebbagの『From El Fantasma De La Libertad』だった。クラブ音楽的なものは殆ど聴かなくなったので、ベストに1枚も入らない状態だったのだけど、唯一RaphaelのこのCDだけは選ぶ可能性があった。このCDの冒頭3曲のTelmaryのフロウはオレの好みで、世界的に女性ラッパーというものを見ても、個人的に気に入った人が殆どいない状況をTelmaryは打破してくれた(唯一、日本の女性ラッパーのHACは気に入っているけれど、この人のソロの音源を持ってないし、今どうしているのかも知らない)。なので、その3曲とせいぜいそのインストだけならば、たとえシングル扱いだったとしても『From El Fantasma De La Libertad』を入れたと思うけど、リミックスが蛇足にしか思えない今のオレには、年間を通して他の作品と比べた時にはどうしても見劣りするものになった。で、そのCDで名前を知ったTelmaryを調べてみると、昨年の前半に1stソロアルバム『A Diario』を出していて、すぐに手に入れた。そのアルバムのプロデュースはYusaというキューバの音楽シーンでは要注意の若手で、その点も注目に値する。



『A Diario』の音は雑多なものだと言える。当然のようにアフロ・キューバンな音もあるけれど、The Rootsを思い出すようなジャジーなトラックもあったり、ロックなギターが鳴り響いたりもする。それらが渾然一体となったものも多く、結局はミクスチャーと言った方がわかりやすい。とっ散らかった感触もあるけれど、それをTelmaryの声で関係性のあるものに仕上がるところが魅力で、結構繰り返し聴いているのに飽きない。Telmaryのフロウは、Raphaelのトラックでもそうだったようにクールでポエトリー・リーディングな感じだけど、早口でラップする時はさすがのラテンなノリで、この感じは他のラッパーには無い。絶賛しているにもかかわらずベストに選ばなかったのは、ここまでインプレを放っておいた事と、最初のインパクトがRaphaelと組んだモノだったので、なかなか『A Diario』をベストという言い方はしにくい気分だった。









Telmary 『A Diario』




結局にヒップホップのインプレ4連発。でもネットでTelmaryの情報を調べてみても、あえてヒップホップという言葉を避けているフシが伺える。それが日本だけなのか海外もそうなのかわからないけれど、日本においてはヒップホップ音楽というものの定義の仕方が、微妙な感じになっているように思う。それはJラップというダサい言葉を使われた事に起因していて、ヒップホップなミュージシャンから見ると、Jラップという言葉は差別的な言葉になる(それはECDが「Mass対Core」で、「アンチJラップ ここに宣言」と言っている事からもわかる)。J文学とかJクラシックとか、Jを頭に使われるとダメな感じがするのは、それがマス(コミ)主導で使われた言葉だからだろう。

じゃあ、ヒップホップ音楽という定義は何か?といえば、いわゆる4大要素の中のDJとラップという事になるはずだけど、それを思えばラップしていればヒップホップという事は言える。だけど日本ではJラップのせいでちょっとその辺言い回しが難しい。オレとしてはめんどくさいので、m.c.A・Tもヒップホップでいいじゃんと思う。言い方は何であれ、面白いか面白く無いか、それが重要なのだから。

で、Telmaryがヒップホップと言われていないのは、多分トラックの基本が生演奏で、DJ的ではないからだろう。でも、The Rootsがいる以上、生演奏主体であってもヒップホップという言い方は出来る。だからTelmaryは、音楽的にはミクスチャーだけど、キューバ産のヒップホップという事でいいんじゃないかと、思う。



余計な話を続けると、昨年のMMの9月号にTelmaryのインタビューが載っていて、それを読むとキューバの現状を多少知る事が出来た。キューバでは音楽CDが150ドルもするらしく、その150ドルはキューバの平均月収だとか。要するに、裕福層でなければCDなんて買う事は出来ない。さらに、Telmaryが招待を受け、アメリカに行こうとしたところヴィザが下りずに断念という事もあったらしい。昨年のWBCキューバ代表がアメリカに行く事が難しかった事は記憶に新しいけれど、あれを見て、なぜ今時スポーツの為の渡航ですらそんな事になるのか不思議だった。けれど、それがキューバアメリカの関係なんだという事を今更思い知った。