Nas

「もう、ヒップホップを聴くのは止める」と、思い続けて何年経つのか。The RootsとCommon、Madlib辺りはヒップホップという言葉に拘らなくてもいいぐらい成熟しているので、この辺だけでいいと昨年は自分に言い聞かせていたけれど、Nasが新作を出してくるとシカト出来ない事に気付いた。



前作の『Street's Disciple』は、Nasのキャリアを通じて傑作といえる内容だったと思う。2枚組みという普段なら引きそうな量も、あのアルバムはそれだけの価値があるトラックが並んでいた。それから2年たっての『Hip Hop is Dead』は、トラックの質感は今様の圧がかかった音で、個人的には好みとはいい難い。だけど、余裕のミドルテンポな1曲目の「Money Over Bullshit」から、タイトル・トラックの「Hip Hop is Dead」まで密度は濃い。流れを断ち切るかのように、隙間の多いトラックの「Who Killed It」、Jay-Zをフィーチャーした「Black Republican」と来て、今作で最もメロウな「Not Goin' Back」には、Kelisをフィーチャー。しかも「I won't go back today」と歌わせ、「I'm not goin' back」と答えるNas・・・。今や大人気のKanye Westをフィーチャーした「Still Dreaming」を挟んで、12曲目の「Let There be Light」までは、前半と違う流れ。続く「Play on Playa」では西海岸のセレブ、Snoop Dogをフィーチャー(初共演?)。東と西のNo1ラッパーがお互いの持ち味を発揮。曲調は流れを引き受けているけれど、この組み合わせというだけで嬉しくなる。この後、特に流れを変えない2曲が続き、終曲「Hope」は、なんとNasのラップでのアカペラ。冒頭と曲の半ば辺りで女声ヴォーカルが入ってくるけれど、こういう事をやるというのは、Nasのラッパーとしての自信の表れだろう。この後、日本盤には2曲のボートラが入っていているけど、アルバムの流れ的には不必要。



「Hip Hop is Dead」までの如何にもヒップホップな押し、ブレイク的な2曲を挟んでそれ以降のメロウな楽曲、前半と後半では流れの違うアルバムだと思う。








タイトル・トラックの「Hip Hop is Dead」はわかりやすいぐらいにカッコいい曲。だからこの曲はとりあえず繰返し聴いたけれど、多分そうしていると飽きる類の曲でもある。なぜか日本盤に対訳がついていないので、いったいどういう事を言っているのか気になるけれど、よくわからないままに英語のリリックを読むと、特に衝撃的な内容というよりも、アフロ・アメリカンに対する警鐘を鳴らしているというか、そいうものだと思う。それで思い出したのだけど、前作の「U.B.R.」で次はKRS-1の事についての曲が入ってくるような印象だったのに、そういうものは見当たらない。まあ、「Hip Hop is Dead」がKRS-1的とも言えるけれど。