Tom Waits

オレはタバコを吸うのだけど、そのきっかけになったのは、別につっぱらかったりカッコつけじゃなくて、声を潰したかったからだった。場末のブログとは言え、何歳の頃から吸ってるかなんて書けないけれど、とにかくまだ高かった自分の声がイヤで、それをどうにかするにはタバコで潰すしかないと思った(大間違いなわけだが・・・)。けど、声を潰すほどタバコを吸っていい立場ではなかったので、結局只のカッコつけにしかならなかったのだけど。低い声というのは、やはり普通に男性的であるということだろう。男という性別であるからには、自分がそれであるという意味において、成熟するという事の一つが低い声という事を無意識に思っていたのかもしれない。その低い声という事で、オレが徹底的にあこがれたのがIggy Pop。Stoogesであったり、ソロでもパンキッシュな歌では通常の声のIggyが、意識的に低い声で歌った時の声は、それに憧れる事に十分の魅力がある。

それから数年経って、たまたま聴く事になるTom Waits。Tomの声は、低くもあるけれどしゃがれたダミ声の印象が強い。こっちこそタバコで潰した声で、その声で「Lookin' for the Heart of Saturday Night」と歌う。危うくAORになりそうだけど、そうはさせない雰囲気を携えている。そのアルバム『The Heart of Saturday Night』の後、『Rain Dog』、『Bone Machine』と聴いてみて、この人は決してAORにはならないと確信した頃、あのEpitaphに移籍。それからは『Mule Variations』や前作『Real Gone』など、若いバンドや歌手には太刀打ち出来ない世界を作り上げている。

新作の『Orphans』は、新録とか旧録とか、色々混じった状態の3枚組み。録音して未発表だったものや、新たに録音したものなど、結構取り留めない。だけど3枚のディスクそれぞれにテーマが有るので、気分に合わせて1枚だけ聴くのが正しい聴き方だと思う。なんせあの声でCD3枚に渡って歌っているのだから、続けざまに聴くと相当濃い。









Tom Waits 『Orphans』




なかなかインプレに移らないのは、実は特にこれといった印象が無いからで、なんていうか、Tomの場合はその声で全てOKにしてしまうところがあるし、自己プロデュースに長けている人だから「しまった」作品を作る事は無い(Iggyは時々そういう事がある)。なのでTomの声が好きなら、『Orphans』だろうが『Rain Dog』だろうがどっちでも関係なく聴いていいと思う。まあ、若い頃から現在に向けてどんどん声はしゃがれてきているけど、多分『The Heart of Saturday Night』しか聴いてなくても、『Orphans』を聴けるはず。いや、、、やっぱ無理か。