芳垣安洋 / 佐藤研二 / 原田仁

先週は週を通して体が不調で(といっても風邪とかではなく外科系の痛み)、必要以上の事を喋ることが出来ないぐらい辛かった。オレは電話を左手で持つので、左腕の肘も痛い状態だったから、仕事中の電話でも「はい、はイ、ハイ(ガチャ)」で電話を切る事が多く、ちょっとマズイかなと思ったりしたけれど、それは今後のフォローで補う。と、そういう調子だったので、見たいライブがありながらもさすがに諦めておとなしくしていた。

で、今週。調子が戻ったかといえばあまり回復していない(電話を持つことは大丈夫になった)。だけど昨夜はスーパーデラックスで芳垣安洋がソロでの演奏。体調不良でライブを見るのは辛いけれど、最悪の場合、スーパーデラックスなら端っこの方でおとなしく座ってみていられるだろうという判断で、結局足を向けることにした。



芳垣以外に佐藤研二と原田仁のソロ演奏というライブ。集客は?と思う。でもこの間のRovoのあの集客を考えれば、その2/6がいるのだから、他のこの手のライブよりは集客あるのかも知れないと思ったけれど、そんな事は無かった。多分30人ぐらい。



佐藤というベーシストは今回初めて知った名前。一応事前にネットで確認したところ、結構マメにソロでの演奏活動を行っているようで、ある意味この3人の中で最も手馴れている。だから彼が1番手という事は正しい選択。まずはチェロを手に取り、擦弦楽器独特の音色を生かした演奏を行う。ディレイを使っているので多重演奏の様に聴こえる。次に本来のメインであるベースを手にとる。弾きまくる。フレーズの最後にハーモニクスを持ってくるからか、Jacoを聴いている気分になる。とにかく弾きまくる。結構音は団子だし、色気も無いけれど、あそこまでやってくれるとなかなかの迫力。



続いて原田。この人も本来の楽器はベース。だけど今回はなんと、ディジュリドゥを使う。「これがディジュリドゥか 初めて生音を聴ける」と思う。本来どういう演奏スタイルで使うものなのかよくわかっていないけれど、原田は一定のフレーズを繰り返すミニマルな演奏を行う。なんか、ふざけた音色にも聴こえるけれど、この独特な響きは面白い。そして結構トランシーで、実は途中で飽きると思ったけど、最後まで楽しく聴いた。



いよいよ御大の芳垣。最初のセットで佐藤が「芳垣さんに負けないようにそれなりに機材持って来たつもりだけど・・・、負けました」と言っていたぐらい、さすがの鳴り物の多さ。パッと見ただけでも、通常のドラムセットにパーカッションセット、床にちりばめた無数のシンバル、やたら口径のでかいバスドラを横に寝かせた状態のもの、ラバーバ等々、それら以外にも目に入らないところに置いてある小物(金物)の類とか、まあとにかく色々。そして芳垣が登場し、スティック等をさわり出すと、もう既にそこから演奏が始まっている。足首には鈴がつけられているので、歩くだけでも音が鳴る。まるでどうしようかとガサガサしているような感じで、鈴の音色やスティックをジャラジャラさせる音、それ以外の小物を少し触って音を出す。ウロウロしながらシンバルが散らかっているところに移動し、それを軽く突付いたり踏んだりして音を出す。そして、ラテン系で使われる板金(銅鑼みたいのもの)のようなものを叩いて音を出す。さらには、スペースの端っこ、観客も殆どいないところでシンバルとか金物を滑らせ、壁に当てて音を出す。そのついでに、板金を叩きながら場内を1周。また少しシンバルで遊んで、パーカッションセットの前に。親指ピアノを手にとり、その音色を響かせながら、静かにアフリカン・スタイルで歌いだす。その後、パーカッションセットに向かい、ここで熱く叩き出すかと思ったら、クールに間を生かした叩き方で、ラテンタッチでは無い。さらにそこから移動、床置きされたスピーカーのような物を叩き出し、ここでは少し熱の入ったビートを使う。そして、インド的な歌を披露しつつ、今度は横置きされたバスドラの前に移動。そのバスドラに上に小さい親指ピアノを置き、普通とは違った音の響きを試みる。そのうちにやはりバスドラを直に叩くのだけど、強く叩くのではなく、音を出してはドラの表面を押したり戻したりして、音を震わせる。そしてそのバスドラに小物を置き、バスドラを叩く毎にそれらも当然音を出し、強い音と小物の音が混ざり合い、芳垣の叩きも熱を帯び始めて、バスドラの上に乗っていた小物を徐々に弾き飛ばし、最終的にバスドラの響きだけに変わる。それをフェードアウトさせるとラバーバを手にとり、その弦の響きで演奏をクールダウンさせた。

と、大体こんな感じだったと思う。最後の方はかなり自信無いし、途中もどんな順番だったかあんまり覚えていない、さらにはちょっと端折っている部分もある。だけど、ドラマーとしての芳垣ではなく、パーカッショニストというか、リズム奏者としての演奏だったという事はわかってもらえると思う。このスタイル、こう言ってしまっては問題あるかもしれないけれど、恐らくMilford Gravesに触発された演奏だろう。芳垣本人が、Milfordを尊敬しているというような事を言っていたはずだし、だからこれがその影響から生まれた演奏だという事は容易に察しがつく。だけど当然、演奏内容そのものは違うものなので、Milfordのスタイルを芳垣自身のやり方で追求しているという事なのだと思う。まあとにかく、スゲーカッコいいセットだった。文句なし。またすぐにでも見たい。



最後は3人でのセッション。じゃなくて合奏。というのは、このソロでのライブが決まった時芳垣がメールで佐藤に、「セッションの時の楽器は何を使う?」と訊ねたところ、「合奏で何を使うかはまだ決めてません」と返事があり、その合奏という言葉を芳垣は気に入ったとの事。要するにマイブーム状態って事なのだと思うけれど、今後、セッションの事は合奏と呼ぶという活動をするらしい・・・。

その合奏だけど、芳垣は素直にドラムセットでの演奏で、佐藤は当然ベース、原田はディジュリドゥを使う・・・。でもこれが結構嵌っていて、予想外にいい感じのテンション。一応、2曲ほど演奏したと思うけれど、それぞれソロの時とは違って、楽器のぶつかり合いを楽しむようにガツガツいく。原田は途中でギターに持ち替え、サスティーンを効かせたようなキンキンの音を使う。佐藤はやりたい放題弾きたい放題、芳垣はもっと弾けとでも言う様に、挑発というよりは弾きやすいようなリズムを提供。たったの一晩なのに、色んな音楽を体に取り込んだような夜だった。




芳垣安洋は、ライブなどのMCからもわかるように、Milford Graves以外にもArt Ensemble of Chicagoからの影響が強い。両者の共通点は、フリー・ジャズというよりも、アフリカを中心とした民族音楽を取り入れた演奏だと思う。そして多楽器主義という言い方も出来て、Milfordは芳垣が影響を受けたような各種鳴り物を取り入れているけれど、AEOCは管楽器奏者もパーカッションを叩いたりするような始末。こういうプリミティブな演奏が、芳垣の方向性なのかもしれない。

ちなみに芳垣の歌はなかなかいい。声を張り上げるようなことは無く、落ち着いた歌いぶりで、なかなか様になっていた。



体が結構痛む状態でも、結局演奏を聴いている間はそのことを忘れる。それがよくわかったので、今年のライブ鑑賞の締めはもう少し先に伸びる。



こっからは完全な私信。始めに外科的な痛みを感じると書いたけれど、ここを見ているオレの知り合いで、先々週のオレの行動の一部を知っている人はそれが原因だと笑っているだろ? だれど、決してそのせいではない。あれが原因なら、先週ではなく先々週から痛んでいるはず。だから喜んで、「ザマーミロ」というメールをよこしたりしないように。