Carl Craig

最近あまりクラブ音楽というものに興味がなくなったけれど、なんとなく物色してみたりすることもある。そこでHerbertの新作とかが置いてあって、「ふうん」とは思ったけれど購入せず、こうやって興味が薄れていけば多少CD購入のペースも落ちて、少しはマトモな経済状態に近づくかもしれないと考える。

この前タワレコでウロウロして、DJ Spookyの『Riddim Come Forward!』にちょっと悩みながらとりあえず保留に。それは、既に5階で何枚かCDを購入していたので、3Fでは目ぼしいもののチェックだけにして、買うとしても1枚だけと決めていたから。1枚買うつもりがあるなら買えばよかったんじゃ?と思うかもしれないけれど、その時にCarl Craigの『From the Vault: Planet E Classics Collection Vol.1』を見つけてしまっていたので、どっちを買うか、悩んだ末の決断だった(大袈裟)。

『From the Vault』は天才C.Craigのベスト的な選曲のコンピ盤。何故C.Craigが天才かといえば、CDの帯にそう書いてあるからで、それならばその言葉を信じるしかない。って、別にC.Craigを初めて聴くわけでもなく、90年代は当たり前のようにその音を聴いていた。

戯言は追記に回すことにして、『From the Vault』はC.Craigのキャリアから満遍なく選曲されたと思われるような選曲。オレはURとJeff Millsを除けば12inchを殆ど購入しなかったので、12inchに収められていた楽曲を聴けるのは嬉しい。特にInnerzone Orchestra名義の「Bug in the Bass Bin」は昔から聴いてみたかった曲で、パワフルなドラム(Fransico Moraらしい)と編みこまれたリズム・パターンは今聴いても聴き応えがある(『Programmed』に収められているバージョンのロング・バージョンなのだと思うけど)。他にも知らない曲が多く、楽曲もバラエティに飛んでいて、C.Craigの懐の深さを痛感。

個人的なベストは昔からよく聴いている「At Les」。この曲のInnerzone Orchestraバージョンもいいけど、この『More Songs About Food and Revolutionary Art』に収められているバージョンの、打ち込みのリズムとずれているかのように感じる上物のコントラストがいい。









Carl Craig 『From the Vault: Planet E Classics Collection Vol.1』




では戯言(本文も戯言だけど)。しかも長くなる予定。

『From the Vault』だけど、オレはヴォーカル入りのトラックはあまり気に入っていない。なので頭と終わりが個人的にはイマイチで、そこが少し気になるし、だからこのCDを初めてC.Craigを聴く人にお勧め出来るかと言えば、微妙(C.CraigをCDというフォーマットで考えるのも無粋かも)。オレはやはり『Landcruising』(現行盤は『Album Formerly Known As...』というタイトル)を初めて聴く人には勧めたくなる。そしてC.Craigを気に入ったのなら、『The Sound of Music』(69名義)、『More Songs About Food and Revolutionary Art』、『Programmed』(Innerzone Orchestra名義)と進ませ、『From the Vault』と『Detroit Experiment』まで聴かせる。要するに、C.Craigは全部聴けって事なのだけど(DJ Mix盤やコンピ物は省く)。

オレがC.Craigを初めて聴いたのは、『Relics』というアルバムだった。これはDerrick May目当てで買ったものだけど、そこにPsyche名義で入っていた「CrackDown」を気に入っていた。「CrackDown」は、4つ打ちに生ピアノが絡むもので、そのピアノは恐らくアドリブ・プレイ。この時点で生楽器のアドリブと、打ち込みのリズム・パターンを組み合わせいたと言う事は、後のInnerzone Orchestraとのつながりがわかる。

全然わかっていなかった頃なので、このPsycheというのもDerrickの事だと思っていた(後にそれがC.Craigだと知ってちょっと恥ずかしい思いをした)。その後『Landcrusing』が出て、それからC.Craigを聴きつづけることになる。ある時期からクラブに行くことはまず無くなったので、積極的にそういう音から離れようと思っていたタイミングで『Programmed』が出て、さらに『Detroit Experiment』で追い討ちをかけられ、ジャンルの枠を取り払って、C.Craigは新作(もちろんCDで)が出れば、ちゃんとチェックするリストに残ってしまった。ちなみに『Programmed』はエレクトリック+ジャズと言えるものだけど、エレクトリック側からの音としてアプローチして、オレのようなジャズ好きにもアピールしたものという事の意味は大きいと思う(他のエレクトリック系ミュージシャンのそういうものはあまりアピールしてない)。そして『Detroit Experiment』はさらに広いリスナーへ向けたとも言える内容で、エレクトリックとかジャズとかそういう範疇ではなく、デトロイトのアフロ・アメリカン音楽の集大成的な内容。こんなものを作り上げたC.Craigは、アフロ・アメリカン音楽好きからも注目されるべきだと思う。



頭で長くなると断ったので、さらに続ける。『From the Vault』を聴いて、久々に『Relics』を引っ張り出して聴いて、で、「やっぱDerrickはカッコいい」と思った。デトロイト・テクノが特別な音楽になるきっかけを作ったのは、Derrickの「Strings of Life」だという事を一々指摘しなくても色んなところで言われているので必要ないだろうけれど、やっぱ「Strings of Life」は名曲だと再認識。でも『Relics』に入っている「Strings of Life」はスネアやバスドラの音を抜いたリミックス・バージョンなので、オリジナルが聴きたくて『Innovator - Soundtrack for the Tenth Planet』も引っ張り出す。そしてついでに『Innovator』(2枚組みで日本の企画の方)も引っ張り出して、野田努の書いたライナーを読んで疑問が浮かぶ。野田氏は「Strings of Life」のオリジナルバージョンがDisc1の3曲目で、そのロング・バージョンがDisc2に収録と書いているけれど、恐らくそれは逆。そもそもDisc1の3曲目は「Strings of the Strings of Life」というタイトルになっているし、Disc2の10曲目は「Strings of Life MS-4 Version」と書いてある。このタイトルだけをみて野田氏はそういう決め付けをしたのだろう。「MS-4 Version」は確かにトラック表記上は22分もある長い曲だけど、実際には6分丁度ぐらいの長さで、そのあとは延々無音状態が続く。これはDerrickが、その後に入っているKen IshiiとJoanの手によるリミックスは、あくまでもオマケだという事を主張する為にこういう事をしたと考えられる。という事で、8分を超える「Strings of the Strings of Life」が「Strings of Life」のロング・バージョンであることは間違いないはず。

が、、、恐らく「MS-4 Version」も、本来のオリジナル・バージョンを微妙にいじってある。確かに「MS-4 Version」はオリジナルのミックスを元にしていると思うけれど、『Innovator - Soundtrack for the Tenth Planet』に入っているものがオリジナル・ミックスだと仮定すれば、そのオリジナルよりも若干テンポが速い。それは聴けばわかるのだけど、自分の耳に自信が無いオレは、念のためWaveファイルをエディターでチェックしてみた。まずオリジナル・バージョンは、スタートから0.23秒のところで音が鳴り始め、約371秒のところで音が消える。「MS-4 Version」は0.495秒で音が鳴り始め、約361秒のところで音が消える。

371-0.23=370.77で361-0.495=360.505だから、「MS-4 Version」はオリジナルよりも約10秒も短い。元々370秒の曲を360秒に変更したのだから、大体1.025倍の速さで再生していることになる。この数字を出してみて、思ったよりもテンポが速くなっているわけではないということがわかったのだけど、実際に音を聴いていると、1.025倍の再生でも、結構違って聴こえるもので、元々80年代末期のデトロイト・テクノはハードコア的な感じもあるけれど、このわずかなスピードの違いで、そのハードコア的な感触はより大きくなる。

Derrickは90年代に入って殆ど音楽製作という事をしなくなったけれど、数少ない物の中で、System 7との一連のコラボレーション(それをまとめたのが『Mysterious Traveller』)がオレは好きで、「Strings of Life」と同じぐらい『Mysterious Traveller』も気に入っている。だからいつか、Derrickの1stアルバムが出るというニュースを聞きたい。