Japanese Synchro System

ヒップホップは基本的に若い連中の為のシーンという事になっていて、まあオレもそれでいいと思うけれど、オレと同じぐらいの30代半ばから前後する世代は、日本にヒップホップが入ってきてそれが広まっていくのを思春期ぐらいにリアルタイムで経験している。オレが初めて聴いたのはRun DMCで、今でも一応覚えているのだけど、「笑っていいとも」にRun DMCが出てきて演奏したのをTVで見ていて「何だこいつら?」と思った。歌うと言うより喋っているような歌、そしてレコードを手で動かして音を出す、こんな変なの見たこと無かった。そこから一気に嵌ったりはしなかったけれど、それからLL Cool JBeastie BoysPublic Enemyが出てきた辺りでヒップホップは日本でも定着した。個人的にはPEのトラック、ラップともに好きになり、PEを中心にヒップホップを聴くことで、Bな方向に行く事は無くてもヒップホップは聴き続けることになった。

そして日本のヒップホップが浮上してくる。ターニング・ポイントは95年辺り。それまでの日本のヒップホップは、例えばいとうせいこうが何故かラップのアルバムを作ってみたり、佐野元春が『Visitors』で彼なりの表現としてラップを取り入れたりしていたけれど、殆どは色物扱いだった。だけどその裏でMajor Forceがヒップホップを扱うレーベルとしてかすかに浸透し、Tyny Punxがその筆頭として活動していたりしていたけれど、それらも聴いていて面白いと思うようなものではなかった。但しそこからスチャダラパーを排出し、少しずつだけど日本のヒップホップというものが露出してくる。だけどこのあたりで、m.c.A・Tのような全然ヒップじゃ無い物が出てきたり、「Da-Yo-Ne」なんてものが売れたりして、結局色物としてしか機能しないのか?と、思わせるような感じになったけれど、オレはこの頃はECDを聴いていて、そのシンプルながらカッコいいトラック、そしてなによりECDのライムに引かれていて、アンダーグラウンドなら、ヒップホップもやりたい表現を追及していける事を感じた。そのECDが95年、ついにメジャーから『Homesick』を発表し、その後数々のグループがインディー、メジャーを問わず、日本のヒップホップシーンと言うものを作り上げるようになった。

そうやって日本のヒップホップが定着していくのを見ながら、ある時期までは95年前後に出てきた連中以降の音に期待していたけれど、結局そのシーンを押し上げることに貢献した連中以外の音は面白いと思う事が無かった。「まあ、オレもそろそろ30だし、ヒップホップはもういいか」と思い出した頃、DJ Krush率いる流というユニットの曲、「Ill-Betnik」を聴いてそこでラップするBossというラッパーに違和感を感じる。ラップと言うよりポエトリー・リーディングのようなBossのラップは、それまでの流れとは完全に違っていたし、そのライムの内容も内しょう的で重い。最初はその違和感からBossのラップを受け付けなかったけれど、気が付くとそのラップに嵌っていて、BossのメインユニットであるTha Blue Herbを聴く事になる。そのTBHのアルバムを100%気に入りはしなかったけれど、あきらかに他とは違うTBHを聴いて、ここで日本のヒップホップはいきなり成熟してしまったと思った。その後は結局、TBHECDTwigyぐらいしか日本のヒップホップを聴いていないけれど、いくらかプッシュされているものを試聴してみたりして、結局TBH以降というものが未だに見えていないと思ったりしている。



と、思い出を語ってみて、何のことが書きたいかというと、Japanese Synchro Systemの事。このJSS、CalmとBossのユニット。このユニットは簡単に言えばクラブ音楽だけど、Herbest Moonというハウスユニットの前例があるので、「ヒップホップのBossが何故?」と思うことも無く、タワレコで購入してきた。こういうユニットが動き出している事を最近まで全然知らなくて、たまたまとある人のメールで知ることになったのだけど、既にCDシングルも出ていて、しかもそのシングルの曲はアルバムには入っていないという事なのでまとめて購入。「余計な金がかかったなあ」と思いつつも何是かニヤつく。Calmは、結構大きくプッシュされていた時にとりあえずCDを1枚買ってみたけれど、特に気に入ったりはしなかった(ダメという事でもない)。

で、『The Foundation』と『The Elaboration』。ハウスというよりはテクノなトラックが多く、R&B的なものや、クラブ音楽から外れているものも並んでいて、音圧よりも、高いところで音を聴かせようとしている気がする。『The Foundation』に収録の「Japanese Synchro System」と、『The Elaboration』に収録の「High Touch」は、完全にデトロイト・テクノという趣。いや、「High Touch」はデトロイト・テクノというより「Strings of Life」へのオマージュだと思う。そして「これをやるか」と思ったのは、『The Elaboration』に収録の「I'm on Fire」。「なんか聴いた事のあるフレーズが使われているなあ」と思っていたら、「Baby・・・」と歌が始まる。「これはBruce Springsteenのカバーだ」と、驚く。まあ、TBHブルーハーツの「未来は僕らの手の中」のカバーバージョン、「未来はオレ等の手の中」をやっていたのでかなり意外という事でもないけれど、このユニットでこれをやるとは・・・。「I'm on Fire」は、Springsteenの曲の中でもかなり直接的に官能的といえる曲で、それをカバーするというのは、やはり少し意外かも。









Japanese Synchro System 『The Foundation』









Japanese Synchro System 『The Elaboration』




JSSの最大の特徴は、Bossのラップが入ったり完全に歌ものと言える曲があったり、ポエトリー・リーディングが入っている点だと思う。バラエティに富んだという言い方でいいと思うけれど、統一感というかアルバムはある種のコンセプトに貫かれているような感触もある。

なのでJSSはクラブ音楽とは言っても、完全なフロア志向ではない。12inchなんかは当然そういう狙いだろうと思うけれど、CDシングルもアルバムも明らかにリスニングを意識している。だから、もうクラブ音楽と言う枠組みには反応しなくなった輩でもこの音は気持ちよく聴けるし、進化とか大げさな言葉を使うつもりは無いけれど、今までのクラブ音楽という枠組みとは違ったものを提供している。オレのつたない知識で言えば、Blazeの1st『25 Years Later』に近い。