Caetano Veloso

前作『A Foreign Sound』は『異国の香り 〜 アメリカン・ソングス』という邦題が示すようにアメリカ音楽のカバー集で、Nirvanaの「Come as You Are」をやっていた事が嬉しかった。齢60を過ぎるCaetanoがアメリカの人気ロックバンドの曲をカバーするという事は、今更売名な行為であるわけも無く、その曲の魅力を評価したからこそなのだろう(スタッフサイドの選曲かもしれないけど)。それに続く新作『ce』は、『Noites Do Norte』以来5年ぶりのオリジナル曲集。紫色のジャケットに、赤い「ce」という文字が入っただけのシンプルなジャケット。このアルバムを購入までに少し時間がかかったので、どこかでこの新作はロックな音になっているという事が書いてあったのを見てしまってから聴く羽目になった。

製作にCaetanoの息子のMoreno Velosoが参加していて、『ce』の音作りはそのMorenoとPedro Saが中心になって行われたらしいけど、新しい世代に属する彼らは、肩に力の入った作風にせず、音の印象は結構軽い。それは、ベース音が支配的な鳴り方ではなく、わりと淡々と鳴っているからで、その証拠にこのアルバムをiPodに入れてカナルのイヤフォンで聴いていても、普段使っている音量ならば、外の音が結構入ってくる。普段聴いているものでは、ここまで外の音が聴こえることは無い。

確かにロックっぽい楽曲もあるけれど、音の軽さが軽快さにつながり、全体的にはポップな印象が強い。所々に感じる少し変わった音の処理(曲の終わりとか)なんかは恐らくプロデュースのセンスだと思うけど、個人的には面白いと思える様な音になっていて、これは若さだけではなく、ブラジリアンならではのセンスじゃないかと思う。



『ce』自体は、今までのCaetanoのアルバムの中でセレクトされる傑作と呼べるようなものじゃないかもしれないけれど、だからこそ聴きやすさがある。個人的なリアルタイムは『Circulado』辺りからになるのだけど、その前の『Estrangerio』や97年のアルバム『Livro』、さらに『Noites Do Norte』も個人的には傑作の類だと思っているのだけど、これらのアルバムは、そういう印象のせいか、あまり繰り返し聴く事が無かった。『A Foreign Sound』はカバー集なので聴きやすくはあったけれど、少し曲のバラツキが気になって、これもあまり聴いていない。だけど『ce』はその軽い印象やアルバム自体がコンパクトに仕上がっている事もあって、結構繰り返し聴いている。なので、もしCaetanoを聴いたことの無い人に何かを勧めるとしたら、本来ならば『Livro』あたりを勧めるべきなのかもしれないけれど、今のオレは『ce』を聴かせたくなる。









Caetano Veloso 『ce』




ついでに余談。『ce』の輸入盤は9月の中旬から後半にかけて既にレコファン等の店頭に出回っていた。リリース情報を知らなかったオレは、まずこれがちゃんとした新作なのかどうかをネットで確認。そして『ce』が新作であることがわかったけれど、10月に出る国内盤にはボーナス・トラックが収録されると書いてあったので、これは国内盤まて待とうと、静観していた。そして発売された国内盤を渋谷タワレコでチェック。ポップなどには「国内盤にはボートラ有り」と書いてあったけれど、CDの帯を見てもそんな記述は無い。「おかしい」と思い、国内盤を入れてあった試聴機でトラック数を確認したけれど、やはり輸入盤と同じトラック数。念の為Nirvanaの『Nevermind』の様に、最後の曲につなげて入っているのかと思って最後の曲のタイムをチェックしてみたけれど、とても余計に曲がくっついているとは思えない長さ。まあ、そんな手の込んだことを日本だけの為にやるとは思ってないので、やはりこれはボートラは無いという判断をして、とりあえずその日は購入せずに帰宅。そしてネット国内盤の発売しているユニバーサル・ミュージックのHPをチェックしたけれど、リリース・インフォメーションすら載せていない。そして翌週、もう一度渋谷タワレコに行き、ポップを見てみると「国内盤にはボートラ有り」のポップは残っていて、「これを見て買った人には、これって詐欺になるんじゃないか?」と思いながら、あえて国内盤を購入した。クレーマーしに行こうかと思う今日この頃。